作家・脚本家として幅広く活躍し、テラーノベルの公式作家でもある武野光さん。2025年6月には、テラーノベルで連載していた人気作『100回殺される私』が、テラーコミックスで待望のコミカライズを果たしました。
今回は、デビューから10年以上のキャリアをもつ武野さんにインタビュー。『100回殺される私』誕生の裏側から、創作に対する考え方、兄・河本ほむらさんとの共同制作の舞台裏について伺いました。“武野節”と称したくなる独自の創作哲学が溢れるインタビューを、ぜひお楽しみください。
──このたびは『100回殺される私』のコミカライズ、おめでとうございます。今回のコミカライズ作品について伺う前に、武野光さんの自己紹介をお願いします。
就活本でデビューしたのが22歳のときで、それからずっと会社員と作家を兼業しています。実用書、小説、漫画原作、各種脚本、ボードゲームデザイン、講演など、いろんなことをやらせてもらっていて有難い限りです。
最近はフィクションが多く、アニメの原作や、メディアミックス関連の脚本などを制作することが多いです。めちゃくちゃまとめると、作家・脚本家かな……と思っています。
目まぐるしい展開のループサスペンス『100回殺される私』の制作秘話

『100回殺される私』のあらすじ
20歳の誕生日を迎えた倫道咲(りんどうさき)は、その夜に突如現れた殺人鬼「仮面の男」に殺害される。しかし、咲が目覚めると誕生日の朝に戻っていた。 そして、その夜に再び仮面の男は現れ、咲は殺される。 無限に殺されることを避けるため咲は殺人鬼への対抗を決心するが、咲が取り込まれた死の円環には、彼女の想像を超える秘密があった──。目まぐるしく展開するループサスペンスストーリー。
──今回、テラーノベルで公式作品として連載していた『100回殺される私』が、コミカライズ作品としてリリースされました。ご感想はいかがですか。
嬉しいです! 原作とは結構中身が変わっているのですが、漫画を描いてくださる磯咲先生がいろいろとアレンジしてかっこよく仕上げてくださっているので純粋に楽しみにさせていただいています。
──原作『100回殺される私』誕生のきっかけや、アイデアの根源はありますか?
テラーノベルさんから「書きませんか?」というお問い合わせをいただいて、そのときはノベルゲーム的なものを結構書いていたので、勢いで着手しました。連載形式なのもおもしろそうだな、と。
兄の河本と当時の事務所でギャーギャー話しながら「明るく楽しいデスゲーム(スリルあり)」みたいなイメージでまとめました。あと、いちおう原作者兄弟みたいな感じなので、どうせ書くなら一筋縄ではいかない設定を作りました。連載中の漫画でも、今後そのあたりが少しずつ明かされていくと思います。
──この作品に込めたテーマや、伝えたかった問いはありますか?
あまりそういうものは作品に込めないようにしています。兄の河本も思想的には似ていると思うんですが、エンタメを作っているわけなので、結果的に出来上がるものには、おもしろいかどうか以外には何もないと思っています。
あくまで一つの書き方ですが、どのように感情を動かすものでも、全部おもしろいに繋がっていたらいいなと思っています。なので、おもしろがってもらえたら最高です。
──執筆の中でこだわった部分はありますか? 逆に、難しかった・苦労した点もあれば教えてください。
だらだらさせないことです。それぞれの話は短いので、とにかく何か起こす、とにかくテンポよく展開させる、というのは意識していたと思います。
主人公がテンションとバイタリティで乗り切ってくれるように設定したのは、それが理由でもあります。勢いを感じてもらえると嬉しいです。
──漫画になった作品をご覧になってみて、印象的だった部分や気に入った部分はありますか?
仮面の男のビジュアルです! 原作を作っているときに頭の中で絵をイメージしていますが、精細ではないので、顔(?)を見たときは変な意味じゃなく笑ってしまいました。「キミこんな顔だったんだなぁ」と。
──原作は武野さんのほか、『賭ケグルイ』原作者の河本ほむらさん、『図書館ドラゴンは火を吹かない』を手掛ける東雲祐さんの3人連名になっていますね。それぞれどのような役割で制作を進めたのでしょうか?
河本と僕がお話を考えて、僕がそれをプロットにしました。ただ、実際に書くとなったら、僕がわりと手が一杯だったので、知り合いだった東雲先生にお声がけしてテキストにしていただき、共同執筆という形になりました。その後、僕が仕上げをし、さらに演出のシステム(※編集部注:テラーノベルのチャットノベルで配信された原作『100回殺される私』では、シーン転換等の視覚的な演出が含まれています。)を組み込んで……みたいな形でした。
ライティングを分業するのは初めてだったので、楽しかったです。東雲先生にはかなり助けていただきました。
武野さん流・創作論「普通のことをやらせない・言わせない・起こさない」

──小説や脚本など幅広い作品を手がけていらっしゃいますが、作品づくりはどのように進めていますか? 創作プロセスについて教えてください。
兼業作家で執筆にフルコミットする時間がかなり限られているので、一時期はめちゃくちゃ大変でした。今もそこそこ大変だな……とは思うんですが!
いろんなパターンがあるんですが……例えば河本と一緒にやっているものだと、河本と数ヵ月に一度くらい数時間かけて話して、その作品の大筋をばーっと全部決めます。それを僕が組み直して執筆して仕上げて、必要なことがあったらたまに連絡して確認して……みたいな感じです。
内容さえ決まっていれば手を動かすのはわりと早いほうかもしれません。あんまり深く考えすぎないようにしているというのもありますが(笑)。
──作品づくりをするうえで、常に意識していること、大切にしていることは何ですか?
「普通のことをやらせない・言わせない・起こさない」です。普通じゃないからエンタメなので、普通のことをキャラにやらせたり言わせたり、起こすならあまり存在意義がなくなってしまうため、かなり意識しているかもしれません。
あと「意味のないことをやらない・言わせない・起こさない」というのもありますね!
自分の作ったキャラは一人も使い捨てたくないので、何度も登場させるなどして一人の人間として大事にしているつもりです。これは作劇の都合で難しいときもあるんですが、書いていると意外と一度作ったキャラが出てきますね!
──作品づくりで特に楽しい瞬間はどんなときでしょうか?
難しいところなんですが……正直、かなり少ないです。書いてノっているときとかはあるんですが、追い詰められていることのほうが圧倒的に多いです。ちなみに書き終えたときや、作品が本などの形になったときも「よかったぁ」とか、安堵の気持ちが強いです。
人間の真理だと思うんですが、実際の作業より、作業する前のほうが楽しいですよね。夢を追うことより夢を語る方が楽しい、みたいな。なので、誰かとネタ出しをして、おもしろいアイディアが出たときとかが楽しいかもしれません。
あと、僕が作っていることまで認識して作品を好きになってくれる人がいたときはすごく嬉しいですね。自分の書いたものだと思ってもらえることって少ないので。自分自身も読者・視聴者の立場のとき、誰が作っているかってあまり意識しないですし。
──これまで作家として活動してきて、一番嬉しかった瞬間はありますか?
武野の書くものが好きだと言ってもらえているのを見たときです。
作品が好かれても作家自体が好かれることって実は少なく、そもそも認知もされ辛いのですが、特に最終成果物を作れない原作に類する立場だと、よりその傾向は強いと思います。わりと影の存在に近いですし、それ自体はそりゃそうだろうなと思います。
なので、上記のように言ってもらえているのを見たときは、報われたような気持ちになりました。本当に感謝です。書店にデビュー作が並んでいるのを見たときより嬉しかったです。
──武野さんが考える、この仕事の“魅力”はどんな部分でしょうか?
自分でもこれがどんな仕事なのかよく分かっていないんですが(笑)、会社の仕事だと創作性ってなかなか発揮できず、どれだけ重要な役割を果たしてもそこに『自分』ってほとんど見出せないと思います。でも、作品づくりは自分がいないと存在しないものの最たる例なので、そこに尽きると思います!
会社員と作家、二足のわらじで活動中。兄弟での共同制作は実際どう?

──2013年に就職関連の書籍を出版されていますが、当時は会社員として勤務されていたのでしょうか?
上述していますが、今もゴリゴリのフルタイム会社員です! 毎日ひいひい言っています!
──現在は、兄・河本ほむらさんと共同でスタジオを運営されていますよね。ご兄弟でスタジオ運営をするに至ったきっかけや経緯、共同でのスタジオ運営・作品づくりの面白さ・難しさがあれば教えてください。
「河本ほむら武野光スタジオ」は、実はホームページの名前というだけで会社でも何でもありません。お互いわりと作品数が多いので「まとめるかぁ」みたいな感じでまとめて掲載しているだけです(笑)。
単純に二人でいれば分業ができるのと、アイディアが出なくて困ったときに相談すればポンと出たりするので、そういう意味で生産量にはかなり影響していると思います。とにかく沢山作り続けたいと、特に河本は思っているので、その点は都合がいいと思います。
難しいのは……距離感ですかね(笑)。あまり関係ないですが、数年間一緒に同じ格闘技ジムで柔術をやっていて、それで共通言語が増えました。でも、基本的には仕事(創作やエンタメ)の話と格闘技の話しかしないですね。
──物語を共に作っていく中で、共同制作で意識しているポイントなどあれば教えてください。
これも難しいんですが……気にしないし、気にさせないのが大事かなと最近は思っています。
分業しているということは、相手の領域を尊重して、自分の領域を大事にする、ということだと思うので、僕は自分の担当範囲は任されているものとして責任を持って自分で判断して作っていくイメージでやっています。なので河本と話したことでも、わりと変えてしまいます。
逆に、河本の領域にはなるべく口を出さないように、それはそうあるものとして受け入れて、「じゃあそこから僕はどうしようかな」という考え方をしているかもしれません。そういう塩梅を掴むのに結構時間はかかった気がします。
「デビューを見据えてがむしゃらに突き進んで!」作家志望者へのメッセージ

──原作の連載元でもある「テラーノベル」というサービスについて、連載した感想はありますか?
自分で演出をつける、というのが新鮮でおもしろかったです(※編集部注:テラーノベルが提供するチャットノベルでは、シーンの転換などを視覚的に演出できる機能があります)。結構大変でしたが(笑)。
昔、河本と遊びでサウンドノベルゲームを作っていたんですが、それが完全に生かされていました!
──武野さんが作家を目指す立場だとしたら、テラーノベルをどのように活用しますか?
僕はいちおう大学生のときに作ったブログが元になってデビューしているので、何らかのツールを使うというのは同じかもしれません。当時の僕は「作家になるため」にブログを作りました。ブログからどうすれば作家デビューに繋がるかを考えていました。
なので、「どうすればデビューに繋がるか」をまず考えて、仮定ができたら、あとはがむしゃらに突き進むのがいいと思います! 方法論自体はいろいろあると思うので。
──作家を目指す人たちに向けて、アドバイスがあればお願いします。
アドバイスなんて全く偉そうなことは言えないんですが……個人的にはデビューするのが一番大変だと思っているので、今が最も高い壁に向かっているんだと思って、がむしゃらにたくさん書いて発表する・コンテストに出すというのが間違いない道だと思います!

──今後、作家として挑戦してみたいことや目標や夢があれば教えてください。
デビューしてから10年以上経って、今は目標や夢は持たないようになりました。自分にできること、得意なことや、できないこと、やりたくないことが、やっと分かってきたからです。
とにかく、おもしろいと思ったことを形にして、なるべく多くの人に触れてもらえるように頑張りたいです。それが誰かに楽しんでもらえたり、喜んでもらえたり、役に立てたら、嬉しいです。
──最後に、読者のみなさまやこれから武野さんの作品を読む方へメッセージをお願いします。
ここまでのインタビューのことは全部無視して、何も考えずに作品を楽しんでください! たぶん全部ノイズです!(笑)
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。河本も僕もわりと作品数は多いので、ぜひホームページを見て、気になるものがあったら触れてみていただけると幸いです。
今回ご協力いただいたクリエイター
武野光(むの・ひかる)
兼業作家・脚本家として活動中。『賭ケグルイ』シリーズのスピンオフ小説『小説賭ケグルイ悦』、『HIGH CARD』の原作・小説執筆、朗読劇『笑ってはいけない音読』の脚本、『ベイブレードX』の原作・シリーズ構成・脚本など、多岐にわたるジャンルで執筆を手がける。
🔗 河本ほむら武野光スタジオHP
🔗 X(@poipheno)
🔗 テラーノベル作品一覧
※インタビュー中に登場した東雲佑先生の原作作品はこちら
🔗『図書館ドラゴンは火を吹かない』
原作:東雲佑、漫画:海坂にたまご
「100回殺される私」はこちらから

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