テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「言ちゃん、宿題しなよ〜」
僕もやる気出ないじゃんか、と言おうとしたら、欠伸が出て最後まで口にできなかった。ついでに伸びをすると、椅子がくるりと回った。
時刻は既に夜10時半を過ぎている。正直もう寝たい。
言は「んー…」と適当な返事を寄越したきり、ベッドに寝転がって漫画を眺めている。
夏休みも後半に入り、僕はそれまで進めていなかった宿題に手をつけ始めた。言も今まで宿題をしていないはずなのに、何故か余裕の態度をとっている。
「去年もギリギリまでワークやってたでしょ。僕手伝わないからね」
回収直前までワークを睨んでいた、と言と同じクラスだった友人から聞き、呆れたのを覚えている。…とはいえ僕も前日に何とか終わったんだけど。
「…ご褒美くれるならやろうかな」
何様だよ、と突っ込みながらも少し思案する。
「うーん…あ、宿題したらちゅーしたげるよ」
からかい半分で言うと、言は数秒固まったあと「…マジ?」と上半身を起こした。
「え、嘘嘘うそ違うって」
「じゃあ頑張ろ〜」
人の話を聞いてないのか。焦る僕とは裏腹に、言はご機嫌で近付いてくる。
「いや百歩譲ってするとしても、宿題やってからって言ったじゃん!」
そりゃ付き合ってるし、キスしたことが無い訳でもないけど…脳内で逃げ道を探す間に、もう鼻先が触れ合いそうなくらいに顔が近付く。
「ちょ、ちょっと待って、」
言は、自分で言ったんでしょ。と言わんばかりに挑発的な笑みを浮かべる。目をギュッと閉じた瞬間、唇に柔らかい感触を感じた。
「…っ」
その感触が無くなってすぐに熱い顔を手の甲で隠すも、それを少し強引に引き剥がされてもう一度口付けられる。
「ん、!?」
直ぐに離れると思ったけれど、生暖かいものが口内に侵入してきて身体がこわばる。身体を後ろに引こうとしても、後頭部に手を添えられて逃げられない。
「ん、ぅ…っ!」
口内を舌で蹂躙される知らない感覚に、身体が粟立つ。何が起こっているのか分からなくて浮かんだ疑問符も、暴力的な快楽で打ち消される。
息が続かなくなり言の背中を叩くと、やっと唇が離される。僕と言を繋ぐ銀色の糸がやけに光を反射して、それすらも先程まで感じていた快感を想起させて、身体が勝手に震えた。
「…やらしー顔」
「っ言のせいじゃん、」
何すんの、と睨むと、「キスだけど」とあっけらかんと答えられた。
「…こんなの、キスじゃない」
息を整えながら文句を垂れる。すると、言は「…もしかして知らない?」とよく分からないことを言い出した。
「どういう事?」
「……いや、何でもない。宿題するわ」
「え、ちょっと」
混乱する僕をよそに机に向かおうとする言の手を咄嗟に掴む。
「なに?」
「……その、もう1回、だけ…」
目を合わせる勇気はなくて、足元に視線を落とす。言は「僕のご褒美じゃなかったの?」と笑いながら僕の頬を撫でて、再び僕らの唇が重なった。