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「とにかく、二人とも無事で良かった。帰るぞ」
後悔しているのに上手く言葉を掛けられない斗和はそれだけ言うと、まだ話していた恵那と忍の会話を強引に中断させ、そのまま自分のバイクが停めてある所まで向かって歩いていく。
「バイクに乗るの、初めて？」
「う、うん……」
「とりあえず、これ被れ」
「ありがとう」
赤いスーパースポーツタイプのバイク前にやって来た斗和は、少し位置の高いセパレートタイプのタンデムシートの上に恵那を座らせると、大きめのリュックのような袋から黒いヘルメットを取り出して恵那に手渡した。
その間に自分のヘルメットを装着して袋を折り畳んでしまった斗和は、慣れていないのかヘルメットの装着に手こずる恵那を前に思わず口角が上がる。
「お前不器用だな」
「そ、そんな事……、ヘルメットなんて普段付けないから慣れてないだけだもん……」
「ったく。しゃーねぇなぁ」
見兼ねた斗和が恵那のヘルメットをきちんと付け直す為に手を伸ばすと、顔に彼の指先が触れた事で少しだけ恥ずかしくなった恵那は頬を赤く染めていく。
「ほら、出来たぞ。ん？ 何か顔赤くねぇか？
」
「そ、そんな事ないよ！？ ヘルメットありがとう！」
「そうか？ まあいいや。んじゃ、しっかり掴まってろよ」
「うん……」
何とか誤魔化せた恵那はホッと胸を撫で下ろす。そして、バイクに跨った斗和からしっかり掴まるよう指示された恵那はおずおずと彼の身体へ手を伸ばすと、思っていた以上に密着していて恥ずかしさが増したのか少ししか掴めずにいた。
「おい、そんなんじゃ振り落とされるぞ？」
「で、でも……」
「もっとしっかり掴めよ」
戸惑う恵那の気持ちを知ってか知らずか手を掴んだ斗和は自身の身体をしっかり掴ませると、
「それじゃあ行くぞ」
一言言って忍と共にその場を後にした。
走っている最中、恵那は勿論、実は斗和も緊張していた。
お互いこうして異性の身体に自身の身体を密着させる事なんて経験が無いから仕方が無い。
モーター音や振動で互いの鼓動は聞こえないはずだけど、ドキドキが相手に伝わってしまいそうで終始気が気じゃ無かった。
「それじゃあ斗和さん、恵那さん、俺はここで」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「忍くん、本当にありがとう！」
「お二人も気を付けて。それじゃあ、また明日」
斗和と恵那の言葉に笑顔で答えた忍は、二人の自宅へと続く高架下を過ぎた辺りで来た道を引き返していく。
そして、忍と別れた斗和は再びバイクを走らせて恵那の住む祖父母宅の前でバイクを停めた。
「どうだ？ 初めてバイクの後ろに乗った感想は」
「初めは怖かったけど、慣れて来たら快適だったかも」
「なら良かった。つーか、今日は本当、悪かったな」
「ううん。大丈夫」
「……こういう事があるから、俺は言ったんだ。一緒に居ねぇ方が良いって」
「……斗和」
バイクから降りてヘルメットを取った恵那が大丈夫と口にしても、やはり今日の出来事は斗和の中でだいぶ堪えたらしい。
自分のせいで仲間や恵那が危険に晒される事を避けたい斗和は、
「――恵那、やっぱりお前は、俺と居ない方が良いと思う。一人にする訳じゃねぇけど、行動を共にするならせめて忍の方が良い」
自分とは距離を置くべきだとキッパリ言うけれど、
「斗和……私ね、この町に来て、斗和と一緒に居るようになって、毎日本当に楽しいの。凄く、充実してるの。確かに、今日みたいに危険な目に遭うのは、怖いよ？ でもね、私、それでも……斗和と一緒に居たい。斗和や忍くんや、プリュ・フォールのみんなには迷惑かけちゃうかもしれないけど、今まで通り、一緒に居たいの……駄目、かな？」
恵那もまた、思っていた素直な気持ちを口にする。
そんな恵那の言葉を聞いた斗和は、
「――別に、駄目じゃねぇよ。お前がそうしたいってなら、いいけど……。それなら、危険な目に遭っても文句言うなよな」
一瞬呆気に取られはしたものの『一緒に居たい』という恵那の言葉が嬉しくて、その嬉しさを表情に出すのが恥ずかしかった斗和は視線を少しだけ外しながらぶっきらぼうな物言いをした。
「言わないよ、文句なんて。ありがとう、斗和。それじゃあ、また明日ね」
「ああ」
斗和の返答に笑顔で返した恵那は『また明日』と言って家の中へ入って行く。
「……本当、変わったヤツ」
自分と一緒に居たいだなんて心底変わった人だと思いながらも嬉しさを隠しきれなくなった斗和の表情はいつになく緩んでいた。
そして、家に入った恵那もまた、
「……良かった、これからも、傍に居られるんだ」
明日からも変わらず斗和の傍に居られる事が嬉しくて、自然と笑みが溢れていた。
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