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「…………っ」
驚きに少しばかり目を見開き、暫し固まるそいつ。
「…………小説、です」
やがて辿々しく紡がれる、韓国語。そいつは俺に、戸惑っているようだった。
「どんな小説なんだぜ?」
「…………普通の、普通の小説、ですよ」
本を隠すように、抱き締めるそいつ。まるで何かを暴かれるのを、恐れるように────そんなことをされたら、ますます気になってしまう。
「見せるんだぜ!」
「っ、あ!」
俺は素早くそいつに近付き、腕の中の本を引き抜いた。手に取ってみると、其処に書かれていたのはハングルでもなければ、アルファベットでもない言語。確かこれって……漢字と、平仮名?
俺はそいつに、改めて訊ねた。
「なぁ、ヒョンニム……あんたもしかして、日本人なのか?」
「…………」
黙り込むそいつ。沈黙はすなわち肯定。怒っているのかと思ったが、よく見るとその顔は酷く悲しそうだった。