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とある日の午後10時。
俺は数人のメンバーと行きつけの飲み屋に来ていた。
集まってから既に2時間が経過していて、
暴れている奴が2、3人ほどいる。
これはすんなりと帰れそうにないな…なんて
ぼんやりと考えていると
珍しくあまり酔っ払っていない様子の大先生が楽しそうに
此方へじりじりと近寄ってきた。
そして一言。
ut「なぁロボロ…お前彼女とか作らんの?」
思わず溜息をついた。
別に濁したり、無視しても構わないのだが
酒で潰れたメンバーが多い中
今まともに話せるのは大先生くらいだ。
(することもないし、偶には此奴の話でも聞いたるか…)
rb「何やねん…突然…」
ut「いや…だってお前さ、背ぇ低いし声でかいけど、
エミさん程モテへんわけやないやろ?
だから何で何やろなって思って…」
rb「うっさいねん!あとエミさんに謝れ!」
(やっぱりまともに聞くんじゃなかった)
悪びれる素振りもなく笑う大先生に軽蔑の目を向けながら
一度話を聞くと決めたことだし..と仕方なしに話を戻す。
rb「揶揄うんやったらもう話さんぞ…」
ut「ははっ…悪い悪い。冗談やって…そんな怒んなよ。
んで…実際のところどうなん?」
rb「それは……」
話しながら大先生の後方をチラリと見ると、
琥珀色の瞳をした彼がゾムの肩を掴んで楽しそうに
酒を飲んでいた。
太陽のようにキラキラと輝く笑顔に
思わず胸がドキッと音を立てる。
(言えるわけねぇよな…こんな気持ち…)
rb「…別にええやろ?俺にも事情があんねん」
ut「へぇ…さてはお前好きな奴がおるんやろ?」
rb「なっ…何でわかんねん!?」
ut「ふっふっふ…
ロボロ君、この恋愛マスターを舐めたらあかんよ?」
rb「うっ…….」
ut「どんな娘なん?写真とかある?」
rb「…あってもお前には絶対見せんわ」
ニヤニヤと悪い顔を浮かべる大先生が酒を片手に
背中をバシバシと叩いてくる。
最初こそ口調や言動がいつも通りだから
てっきり酔ってないと思っていたが
どうやら彼もそれなりに酔っているらしい。
いつも以上に…うざい。
その後もしつこく聞いてきたので適当に流していたら
流石に何を言っても無駄だと気づいたらしく、
つまらなそうにまた酒を飲み始めた。
ut「別に隠す必要あらへんやん….
どんなに可愛い娘やっても取ったりなんかせんのに…」
rb「お前は信用ならんねん…..」
ut「ちぇ…ロボロといい…シャオちゃんといい…
肝心なことは教えてくれへんのやから…」
rb「……..は?シャオロン?」
なぜそこで彼の名前が出てくるのか?
他の誰かならまだしも…
その名前をここで聞きたくはなかった。
思わず持っていた箸がピタリと止まる。
話の流れ的に嫌な予感しかしない。
モヤモヤとする気持ちを抑えて大先生の次の言葉を待つ。
ut「シャオちゃん多分彼女さんおるよ。
一昨日二人で遊んだんやけどさ…
首元に真っ赤なキスマークがあってん。
あれは間違いなく黒やなぁ…」
rb「それ…勘違いとかじゃないん?
ほら…ただ蚊に刺されただけとか…」
ut「んー…俺も最初はそう思ったんやけど、指摘したら
めっちゃわかりやすく動揺してん。
ロボロと同じでどんな娘なんかまでは
教えてくれんかったけど….」
rb「….そう….なん….か….」
わかってる。俺は男で…シャオロンも男だ。
結ばれることがないのは最初からわかっていた。
でも…あまりにも残酷すぎやしないか?
俺は今までそんな話をシャオロンから聞いたことがない。
どうして彼は彼女の存在を俺に黙ってたんだろう..
我儘かもしれないが、いるなら1番に言って欲しかった。
(俺は…シャオロンのマブダチでもないのか?)
やるせなさと悲しみで溢れそうになる涙を唇を噛んで
ぐっと堪える。
ut「…….ロボロ、どしたん?」
rb「え…?あぁ…いやなんもない……けど…
大先生、俺そろそろ帰るわ」
ut「うぇ!?もう帰るん!?もうちょっとおってや!
ロボロ帰ったら酔っ払いどもの介抱する人が減るやん!
もう…まともなん俺とお前くらいやで!」
rb「…….確かにそれは…..そうやけど……」
ut「せやろ?だから帰るな!はい…お座り!」
俺は何となく彼と同じ場に居づらくなって
帰ろうとしたのだが、大先生がそれを止めた。
まぁ…でもその場の惨状をまざまざと目に焼き付けると
今此処で帰る気が少し失せる。
暴れている者2名。眠っている者2名。
確かに…この合計4名の酔っ払いを大先生に押しつけて
帰る程心がないわけではない。
rb「わかった。最後までおるわ」
ut「ありがとう!助かる!!」
どうせこの状況だ。
暴れてる奴が落ち着けばすぐに解散となるだろう。
俺の見立てではせいぜい1時間弱ってところ…
そのくらいなら最後までいてやってもいい。
俺はゾムが大量に頼んで残ったままの食事をつまみながら
場が落ち着くのを待った。
そして数分後、机に突っ伏して寝ていたトントンが
むくりと起き上がった。
酔いはとうに覚めたみたいで
暴れていたゾムとシャオロンを宥めて、
俺の気を察したのか帰りを促してくれた。
同じく座布団の上で寝ているコネシマは
全く起きる気配はないが……
なんにせよ…これでようやく帰れる。
コネシマは大先生が家まで送り届けるらしい。
ほっと一息ついて店を出る支度をしていると、
俺の背中に誰かが乗っかかってきた。
怪訝な目で後ろを振り返ると
蕩けた黄色の瞳が此方を楽しそうに見ていた。
それを認識した瞬間…心臓の鼓動が速くなる。
sha「うへへぇ…ロボロ〜…..」
rb「…….重いんやけど退いてくれん?」
sha「ぶぅ…つれないなぁ…俺今酔ってんねん…
家まで送ってやぁ…」
rb「はぁ?大体なぁ…そんなになるまで飲むなよ…
自業自得やろ…」
sha「うわぁ…心ないわぁ…
ロボロは俺が道中で倒れても何も思わんのやな!
ふん..ええもん…トントンに送ってもらうから!」
rb「っ…….それは…..」
ズキリズキリと心が痛む。
俺だって本当はもっとシャオロンといたいし、
家まで送り届けてあげたい。
でも、これ以上彼のそばにいると
この捨てなくちゃいけない気持ちは膨らむばかりなのだ。
”彼には大切な人がいるのに….”
シャオロンは俺の首元から手をするりと解き、
トントンの方へ走っていく。
俺は伝えられない言葉グッと飲み込んだ。
しかし、シャオロンに頼られたトントンは
やや困った顔をしている。
rb「トントン…どしたん?」
tn「いや…俺なゾム送ろうと思ってて…
こいつも珍しく酔ってるから…
でもシャオロンもとなるとかなり時間掛かんねん」
rb「あ…そういえばゾムも酔ってたな…」
tn「せやねん…ロボロ…めんどくさいのはわかるけど、
どっちか送ってくれへん?」
rb「…….はぁ…それならしゃあない…シャオ…」
sha「俺トントンがええ」
rb「………は?」
シャオロンの言葉にさっきよりも強くズキズキと胸が痛む
彼は此方にべーと舌を出し、
トントンの腕に自身の腕を絡めた。
tn「ええ…まぁ…いいけど…
実際こっからやとお前の方がゾムより家遠いからな…
ロボロもゾム送る方が楽やろ?」
rb「……….」
sha「何黙ってんねん..お前は俺…送りたないんやろ?
ええやんそれで…何が不服なんや?」
tn「シャオロン…そんな言い方せんでも……」
rb「送りたくないなんて言ってないやろ?
トントン…やっぱりシャオロンは俺が送るわ。
ほら…我儘言わずにこっち来いよ」
tn「……まぁ、俺はどっちでもええけど…..」
シャオロンはまだトントンの腕に
しがみついたままだったが、
俺が手を出せば嫌々その手を取ってくれた。
必要な分のお金をトントンに渡し、2人で店を出る。
終電まで時間がないから急ごうかと
俯きがちなシャオロンに告げると、
彼は俺の首元に頭を擦り付けて
ぽつりぽつりと言葉をこぼした。
sha「今日はロボロの家泊まりたい……」
rb「…….なんで?」
sha「ええやん別に…それとも….やっぱりあかん?」
rb「…….俺の家ならこっから近いし、
歩いて帰るけどかまん?」
sha「うん…..わかった。ありがとう…」
本当は疲れているし、気持ちの整理もしたいから
普段なら嬉しいシャオロンのお願いを
断ろうとも思ったのだが、
彼の顔がとても悲しげだったから断るに断れなかった。
どうしてそんな顔してるのかはわからないが
元気になってほしいと思うのは当然のこと。
シャオロンが俺の家に来たいのならば
それを叶えてやりたい。
ゆらゆらと不安げに揺れる黄色の瞳を見て、手を伸ばし、
ポンと頭を一撫でしてやるとまた夜の道を歩き始める。
sha「ごめんな……さっき酷いこと言って…」
rb「そんなんいつものことやん。
それに…俺の方こそ言い方キツかったな。
自業自得なんて言葉を使うべきじゃなかった」
sha「ん…….怒ってへん?」
rb「全然怒ってへんで?
なんや…そんなこと気にしてたん?」
sha「うん…ロボロに嫌われた気がして…..」
rb「あれだけで嫌いになるわけないやん。
何年一緒におると思ってんの?」
sha「せやな……..ありがと!」
rb「…….はいよ」
へにゃっと柔らかく笑うシャオロンに胸がキュンと鳴いた
(俺に嫌われたかもって不安になってたんか…
やべ……..ちょー可愛い)
俺がシャオロンのことを嫌うわけない。
むしろ好きすぎて困っているくらいだ。
そんなこと彼は知る由もないのだが….
赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、
彼の手を引き、前を向いてスタスタと早歩きする。
チラッと後ろを見ると、
シャオロンはもう悲しい顔をしておらず
花が舞っていると錯覚してしまうくらい嬉しそうな…
それはそれは可愛い顔をしていた。
そうだった….。
彼は中性的な顔立ちをしており、明るい性格も相まって
男女問わず人々を魅了する。
恋人の1人くらい…いてもおかしくないのだ。
今までも俺が知らなかっただけで
たくさんの人と付き合ったのかもしれない。
……想像するだけで胸が苦しい。
でも、たとえ彼が誰かのものだったとしても
今は…今だけは…..
(俺のシャオロンでいてな……..)
つづく