コメント
0件
最近、物忘れがひどくなった。
どこに物を置いたか忘れたり、
何をしようとしていたか忘れたり、
それくらいならまだいいのだけど
予定があったことを忘れたり、
人の名前がすぐに出てこなくなったり、
一口目を飲もうとしたら既に飲み干したあとで唇に氷が当たったり、
直前にしていたことを忘れて、何度も同じことを繰り返したりした。
日記でもつけようかと思ったこともあった。
でも、次の日にはその事すらも忘れていた。
気が付いた時、手に持った日記帳が何を意味するのか分からなくて、ソッと店の棚に戻した。
流石にまずいと思ったけど、
「おんりー?どうかした?」
「….ううん。なんでもないよ。」
いっしょに暮らす君に心配をかけたくなくて。
黙っていた。
ただ、怖かった。
いつか、自分のことも忘れて、自分が自分じゃなくなって、
…君のことも忘れてしまうんじゃないかって。
だから悟られないように、家を出た。
唯一覚えていた住所に。
唯一秘密を打ち明けた人の家に。
「おんりー?!どうしたの?雨降ってたでしょ?びしょびしょじゃん!」
「…あ….すいません、傘…持ってなくて。」
「…とりあえず中、入って。タオル取ってくるから。」
「…ありがとうございます。」
「ここに来たこと、おらふくんには伝えたの?」
「….言ってないです。」
「え?」
「….このままだと、おらふくんのことまで忘れてしまいそうだったので。….それならいっそ、忘れてもらえるまで….会わなければいいかなって。」
「…っ、とにかく、お風呂沸かすから入って、風邪引くから。」
「….お風呂、ありがとうございました。」
「….ねぇおんりー、最近はどう?」
「….前より、忘れる頻度が増えたように思います。」
「…やっぱりおっきい病院とかに行った方がいいよ。もう…僕だけじゃ、なにもできないから…。」
「….っ!でも….」
「怖いなら、僕が一緒に行くからさ、ね?」
「…..はい。」
その後、俺は若年性健忘と診断された。