俺は項垂れているそいつに、改めて声を掛けた。
「ヒョンニム、その……意地悪して、ミアネ」
「…………」
「別に俺、ヒョンニムが日本人だからって、嫌いにはならないんだぜ」
そう言うと、そいつは少しばかり顔を上げた。
日本がかつて朝鮮を支配していたことは、歴史の授業で習っていたので知っていた。でも、いつまでも憎み続けるのは違うと、俺は常に思っていた。何故なら今の日本は、当時と違って戦争も植民地支配もしない、平和な国だからだ。
だけど周りには、そんなことを言える相手が一人もいなかった。親にはおろか、学校の先生にも、言えなかった。当たり前のように「日本嫌い」な奴ばかりが大半を占めるこの国で、反論なんて最早出来なくて。
俺は続けた。
「この際だからはっきり言うんだぜ。俺は日本のこと、最初っから赦してるんだぜ」
「…………っ」
「でもそんなことを言ったら、周りから怒られて苛められるから……ヒョンニムにだけなんだぜ。こうして打ち明けたのは」
だからこれは、二人だけの秘密なんだぜ────俺はそう告げて、本を返した。そいつは本を受け取ると、涙を一筋流し、「カムサハムニダ」と呟いた。
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