コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
疲れ果てた俺は稜を抱きしめて、深い眠りについていた。
普段、夢なんて見ても覚えていないのに、このときに限っては、やけにハッキリとしたものを見たんだ。寝室に充満している、花の香りのせいだろうか――
何故か俺は、いろんな花が咲き乱れている中に躰を横たえながら、抜けるように綺麗な青空をぼんやりと眺めていた。
風に身を任せて流れていく雲、その風に運ばれる花の芳しい香りが心地よくて、目を細めながらその景色を楽しんでいると。
『こんなところにいた、捜したんだよ克巳さんっ』
稜は咲き乱れる花を蹴散らしながら、どこか弾んだ足取りで俺の傍にやって来た。
必死に捜したのだろうか。いつもは整えられている髪の毛が、かわいそうなくらいグチャグチャになっていた。
俺は上半身を起こしてら傍に座った稜の髪を、手櫛で撫でるように梳いてやる。
「捜してくれてありがとう。でも君は芸能人なんだから、身なりはいつも整えておかないと、駄目なものじゃないのか?」
『そういう克巳さんも、頭に花びらをつけてるよ。何気にかわいいんだから♪』
形のいい口角を上げて、笑いながら俺の頭についた花びらを右手で優しく払った。目の前に落ちていく、黄色い花びらが目に留まる。
「そういえば俺のことを捜してたって、何かあった?」
『だって、いなくなったら困るんだよ。克巳さんは俺にとって、大事な駒なんだし』
満面の笑みで微笑んでいるのに、眼差しがやけに怜悧で、何かを企んでいるように感じてしまった。それについて口を開きかけた瞬間、ずるっとどこかへ落ちていく躰。足元を見たら、そこに大きな穴ができていた。
慌てて両腕を伸ばしたが、どこにも掴まれるところがなく、真っ直ぐに落ちていく俺を稜は笑いながらただ見下ろすだけで、助ける気配すらない。
(これから俺は、どうなってしまうのだろうか!?)
底の見えない落とし穴に、ただ身を任せるしかなかったのである。