テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「え、なんでこの山小屋にしたの?」
スタジオ帰り、車の運転席から聞いたのは若井だった。助手席の藤澤は、おにぎりをもぐもぐしながら笑う。
「なんかさ、空気が澄んでて、作曲には最高ってレビューに書いてあったんだよ」
「レビューってそれ、民宿か温泉宿の口コミじゃない?」
「てか元貴はなんで黙ってるの」
後部座席でヘッドホンを外した大森は、のそっと顔を上げる。
「…この場所さ、音出すと“でる”って噂あるんだよね」
「え」
「え?」
「うそうそ。たぶん」
たぶんって何。
到着したのは、思っていた以上に“山”な山小屋だった。スマホの電波はぎりぎり圏外、明かりは最低限、でもスタジオ用に防音設備だけはしっかりしている。なんだか妙に整っているところが逆に怖い。
「…ほんとに曲作り、できんのかここで」
不安そうな若井をよそに、藤澤はさっそくキーボードをセットし始める。
「じゃ、今日中に1曲作るつもりでがんばろー」
その瞬間だった。
「――ギィィ……」
どこからともなく、木の軋むような音がした。
「えっ、今なにか鳴った?」
「気のせいじゃない?」
大森がさらっと流す。
でも藤澤の指が最初のコードを弾いたそのとき――
「ドンッ!!」
天井から、重い何かが落ちたような音が響いた。
全員、静止。
「……ねえ」
「……いまのって」
「……一発鳴らすごとに“なんか”起きる系じゃないよね」