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「….?だ、れ…ですか?」
「っ!」
分かっていた。ドズルさんから聞いたときから覚悟もしていた….はずなのに。
「…おらふくん、だよ。おんりー、覚えてない?」
「….はい。….すいません。」
「….そっか。」
「….おんりー。」
「?…はい。」
「初めまして、おらふくんです!」
見えないように涙を拭って、無理やり笑顔をつくる。
今日の僕がおんりーにとって初めましてなら、せめていい印象をつけたい。そう思ったから。
「….初めまして。」
少し、笑った気がした。気のせいかも知れないけど。
「…あの、おらふくん…って、僕と同い年…ですか?」
「うん、そうだよ。だからタメ口でいいよ。」
「そっ…か。なんだか、大人っぽいから自分より年上かと思った。」
「…っ!」
大人っぽい。
初めてリアルでおんりーに会ったときと同じことを言われた。
やっぱり、記憶がなくてもおんりーはおんりーだ。
「…そう?…おんりーは可愛いなぁ。」
「…かわいい?」
「うん。可愛い。だってさ、」
今までの思い出が流れてくる。
「ゲームでさ、素直に一緒にやりたいって言えばいいのに、コメントで遠回しに言ったりさ、」
「アクスタに僕のサインほしいって直接言ってくれたらいいのに、おんりーの配信でしか言ってくれんしさ、」
こんなこと、今のおんりーに言っても分からないのに、
口から溢れてくる。
「…なのに、こんな大事なことぼくには相談してくれんかったし…」
拭ったはずの涙がまた、溢れてきた。
「….ほんっ…とに、….かわいくない…」
おんりーの顔が見れない。
下を向いて、思ってもないことばが口から流れてくる。
「….おらふくん…」
悲しげな声。
きっと君は、どうしたらいいか分からない、みたいな顔をしているんだろう。
僕だって分かってる。
今のおんりーにこんなこと言うのは八つ当たりだって。
でも、どうしても、《おんりー》に伝えたかった。
「…僕がどんだけ心配したと思ってんだよ…ばか…」
「…。」
また溢れそうになった涙を拭いて、おんりーの顔を見ないように立ち上がる。
「…ドズルさん、ありがとうございました。…今日は、帰りますね。」
「…うん。分かった。じゃあね、おんりー。」
「はい。…おらふくんも、またね。」
「…っ!…う、ん。またね、おんりー。」
カラララ…バタン
ドアが閉まった瞬間、しゃがみこんでしまう。
「っおらふくん?!大丈…」
「ヒック…っうう…おんりぃ….」
「…こっち、座ろ?」
ドズルさんに促されて、近くのソファーに座る。
背中をさすってもらいながら、我慢していた言葉を吐く。
「…っう、おんりぃ…」
「…うん。辛かったね。ごめん。」
「…ぼくのこと、おぼえてないって…やっぱり…やだぁ….」
「…まだ、ちゃんと治る可能性はあるから、ね?」
「…っう…もし、治らんかったらぼく….」
「…っ大丈夫!治る!大丈夫だから!」
強くドズルさんに抱き締められる。
少し、安心できる。
この人の言葉なら、信じてもいいのかもしれない。
「….っぼく、どうしたらいいんですか…?」
「…ちょっとずつ、おんりーが思い出せるように、サポートしてあげよ?毎日会ったら変わるかもしれないからね。」
「…っはい…」
もうぼくには、これしかできないのなら。
一生だって通ってやる。
「….おらふくん…かぁ…」
一人になった病室で、呟く。
「….俺の大事な人…だったのかな。」
なぜか、初対面のはずの彼がとても、愛おしく思えた。
この気持ちはきっと、<記憶を無くす前>の自分の気持ちだ。
「….心配…させたんだろうな、きっと…」
涙を目に溜めて言ったおらふくんの顔が頭に浮かぶ。
『…僕がどんだけ心配したと思ってんだよ…ばか…』
「….ごめんね、おらふくん。」
今はまだ思い出せない。
まるで靄がかかったみたいに。
でも、今までとは違う感覚がする。
…彼にもう一度会えば、思い出せる気がする。