今から13年前の、とある土曜日のこと。
当時9歳の俺は、漢江公園で一人ほっつき歩いていた。いつもつるんでいる友達は、その日は塾で俺と遊べなかった。
確か親から、将来ソウル大への進学を望まれていたんだっけな、そいつ。何せ俺より、頭がめちゃくちゃ良いからなぁ……賢いのも考えものだな。絶対にしんどいんだぜ。
そんなことを考えながら呑気に闊歩していると、ふとある人物が目に入った。俺より年上と思しきその男は、ベンチに座って大人しく本を読んでいた。
見かけない奴だ、と俺は瞬時に悟った。何というか、そんじょそこらの韓国人と、纏っているオーラが違う。真っ直ぐな背筋、揃った足先、短くとも艷やかな黒髪、涼し気な眼差し────凛とした佇まいに、美しさだけでなく、何処かぎこちなさもあった。
俺の足は自ずと、そいつの近くへと歩み寄っていた。そいつへの純粋な興味が、そうさせたのだろう。するとそいつは気付いたらしく、徐ろに顔を上げた。
「どなた、ですか?」
凪いだ水のような声が、俺の鼓膜に響いた。俺は咄嗟にこう返した。
「な……何読んでるんだぜ、ヒョンニム?」
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