「なぁ、一つ聞きたいんやけどさ」
黄色い「あの時」と変わらない彼が振り向く。
彼の綺麗な瞳の中に真っ黒な自分の姿が映る。
その瞬間、少しだけ罪悪感が湧く。
「…ん〜?なに?」
ぎこちない笑顔を向けていることを承知で聞くと、ニコリと彼が笑う。
「「らっだぁ」という人物は幸いにも死んでない。じゃあさ、今、俺の目の前にいるらっだぁは「あの頃」のままやんな…?」
哀しそうに問いかけてくる彼。
「「らっだぁ」は、変わってないよな…?」
過去の自分を捨ててしまってはいないか。
自分たちの知っている「らっだぁ」という人物を、自分たちを「殺してしまった」人物を。
自分自身を、「殺してしまってはいないか」。
言葉に詰まる。
喉の奥で食べ物が詰まったように苦しいそれは、今にも水で流し込みたい程に限界だった。
こんな時、逃げたい時、そんな喉から咄嗟に出てくる言葉はいつも決まっていた。
「…ごめん、」
黄色い彼の瞳が見られなくなる。
真っ黒に染まった自分の姿を映す綺麗な瞳を直視する資格は、残念ながら今の自分には無い。
僕は、ずっと彼らに会いたかった。
心の底から、彼らを失ったと言う事実を消し去りたかった。
それは自身の行為を認めたく無かったからなのか、はたまた、彼らという「友人」を失いたくなかったから。
どちらかを選べと言われれば僕は…
両者とも選べなかった。
どちらもある優柔不断な心の中で、何度も何度も目の前を再び歩き出す彼に謝る。
僕は大罪を犯してしまった。
その事実がある以上、それらを噛み締めて、彼らを前に立たなければならない。
立っていてもいいのか。
存在しても、良いのだろうか…
たとえ「操られていた」としても、僕自身がして良いことと悪いことの違いを分かっていれば嫌でも体に染み付くものだ。
廊下を進み続ける彼の背中を追いながら僕は淡く白色に光る天井を見る。
彼らを殺めてしまった後から自分は「感情」というものを失ってしまっていた。
いや、正確には務所に入っていた時からだろう。
彼らを殺した罪悪感、悲しみがまだ自分のものでは無いような感覚が残る体。
それら全てに脳を貪られる中、残りの余生を刑務所の中で過ごすのだとばかり考えていた。
だが、何故か釈放という形になり、住んでいた家に帰ると「悪い組織」の家系になっていた。
これが「物語」の一連の流れ。
何が何か分からない。
それが僕のこれまでの人生だ。
「きょーさん」
前にある背中に声をかける。
それと同時にぴたりと止む足。
「ん〜?」
優しくも、温かい声。
決して振り返らない背中。
今度は…
「…今度は絶対、」
『殺さないから』
コメント
2件
操られて○してたんか.......しかもまた操られるような感じするんだけど...
おわぁ〜ッすご〜!(語彙力皆無)