「此処が、お前の…………」
「ふふ、つまらない部屋でしょう?」
チングに誘われ訪れたのは、きっちりと物が整頓され、余計な物が殆ど置かれていない、彼の自室。
几帳面な菊らしいな、と思いながら大きな本棚を見ると、日本関連の書物に加え、中韓にまつわる書物もちらほら。確か大学院の博士課程で、東アジアの情勢について研究していたんだよな。
「大学院、もう卒業したっけ?」
「ええ。先週半ばに修了式があって、無事に博士号を取得しました。来月から教授になります」
「教授かぁ、凄いんだぜ…………」
俺なんか高卒なのに。しかも先月のあの件で、芸能界での仕事を全て失って…………そんな自分の情けなさに辟易していると、ふとあるものが目に入った。
「これって…………」
デスクに飾られていたのは、『NAVY SKY』だった頃の俺の、直筆サイン入りブロマイド。
「ああ、覚えていないでしょうが、昔貴方が私に送ってくれたものですよ」
「…………もうアイドルやめちゃったから、飾っても無意味なんだぜ」
「でも…………私にとっては今も宝物です」
優しい手つきで、ブロマイドに触れる菊。まるでこれまでの俺を、労ってくれているようだった。
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