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「腕は?やってない?
毎回その話をするたびに聞いてくる先生。
「してないですよ笑
私はちゃんと本当の事を言っている
いっぱい聞かれたからもうこの答えは慣れっこ。
「いやさぁ、だって夏…あったじゃん?
『夏』 それは私が一番嫌いな言葉。
中2の夏、私が本格的に崩壊し毎日無気力に
ただ死ぬことだけを切に願っていた。
その日々な想像を絶するもので、
この上ない苦しみを味わった。
中3の夏、私はまたやってしまったんだ
ただ約束を忘れて…
まだ傷も残っていて傷を見るたびにそれを思い出す。
先生はたまに部活でちょっと暇になった時とかに
そっと、「元気?
とか、世間話みたいに様子を問うてくる
その度に私は「はい、 とか、「たぶん
とか返している
前までは「大丈夫 って言ってたけど、
「調子悪かったら悪いって言っていいんだよ?
って言ってくれて、
あぁ、そうだ。これは社交辞令でも何でもない
ただ確認したいんだって思った。
だから上手に助けを求められない私が調子が悪め
って言えるようになった
これだけでも私にとっては大きな大きな一歩
いつも、先生はこんなふうに世間話みたいに
そっと調子を聞いてくる。
こんなのがたまーに。
ちょっとした私の日常、
ある日の放課後
4月の中盤。もう桜の花はもうほぼなく、少し
新しい生活に慣れてきた
清掃が終わって掃除監督の先生も次第に職員室に帰り始めるころ、
私は戻る途中の先生に勇気を出して話しかけた
「花京院先生っ!…その、えっと…
そ!相談とか、いいですか…?
そう言って勢いのまま手に持っているカードを
渡す。
___________________________________
相談いいですか?(結構重めの、)
____________________________________
そう書かれたカード。
私がいざ言おうと思っても言葉が出なかった時のためのもの
「え?あぁ、全然いいよ。えーっと
今日、今からいい?
「え?あ、はい…全然大丈夫です
今日?今から?え?いいの?
私はてっきり数日後とかになると思っていたから
呆気にとられた
先生は…、美しい顔の眉を下げて心配そうな
表情をしていたっけな、
「よし、じゃあー、生徒会室?行こ
「あ、はいっ
緊張してちょっと体が固まってきた
途中の階段で先生は「どうしちゃったの?
って降りながら聞いてくれたけど
私は後ろからついて行ってたし、周りに人も
たくさん居たから
「えーっと…あはは、
って気まずい答えしか渡せなかった。
小さめの部屋、生徒会室として使われている部屋に入って
「そこどうぞ
と、席を勧められた
「ありがとうございます。
「それで?どうしたの?
先生は気になってしょうがないのかドアを閉める
動作のまま聞いてくる。
あ、話の導入部分はどう話そうか決めてなかった
やべ。
「えっと、その…夏に…夏服になったら制服、
半袖になるじゃないですか…?
「うん、そうだね
「えっと…それで、リストカットの傷を…
どうやって隠そう…かなって…、
「えぇーなにぃーありゃぁー
先生の反応は私が予想してたのとは全然違って
落ち着いて、動揺も見えなかった
「ちょっと腕見してみぃ
「あ、はい…
これで抵抗がある人がほとんどかも知れないけど
私は全然平気。
むしろこれは予想的中だから安心した
そうして冬服のシャツの腕にあるボタンを外して
袖を捲る。
そうするとまだ日焼けしていない肌にすっと
溶け込むような白いリストバンドをした私の腕
が先生の前に現れる
私は躊躇なくそのリストバンドを取って、
先生に見せる。
「わぁ…、
その傷は一番新しくて2日前のもの。
だからまだ傷も赤い線として残っている
「これ、いつの…?
「手前にある傷が一昨日のです、
「そっか、
「ねぇ、もうこれ一昨日で最後にしよう
「もう…しないで、
驚いた。素直に驚いた、
こんなに序盤でその言葉を聞くとは思わなかった
「ね?お願い、もうしないで…
私はその言葉に下を向いて小さく頷く
「…っ
「これ何で切ってるの…?カッター…?
「はい…
先生は下唇を少し噛んで腕に優しく触れていた
さっきより、遥かに動揺しているように見えた
「あ、ごめん…痛かった?
「全然大丈夫です
先生、全然痛くないですよ。
だって一昨日のやつだし手首の方だから浅い。
「ごめんね、気付いてあげられなくてっ…
そう言われた瞬間先生の目が少し潤んだ
なぜ謝るんですか。何でですか
先生は何も悪くない。何一つ悪くないのに。
そう思っていても言葉には出なかった。
私は黙って小さく首を振った
「ありがとう、
先生はそう言って腕を離して姿勢を戻した
私はまたリストバンドを付けて元通りにした
「なんで…?なんで、やっちゃったの…?
聞いたことないぐらい弱々しい声で先生が
顔を覗き込んで聞く
「……
え?
何で…何で、か。
なんでだろ
何で私は切ったんだろう
分かんない
私はその気持ちのまま首を傾げた
「なにか、悩みとかある?
「んー、
悩み?何だろう
頭真っ白
私、いつも何に悩んでるの?
いつも何を考えてるの?
「人間関係とか?いじめとかあった?
勉強…?でも穂乃果ちゃんはよく出来てるし…
家族とか…?
いじめ…いじめかぁ
いじめは…中学に入ってからたぶんされてない。
勉強…?いやこんな体で頑張ってんだ…
家族…?うちは仲良いし笑いが絶えない
あ、でも悩み…ちょっとしたことならある…
いつもいつもそれに悩まされているのかも、
「いじめはないです。その、でも発言に気を付け
すぎてちょっと辛いです。
相手を傷付けないように…とか、はあります…
「そっか、優しいんだね
優しい…優しいだけが昔からの取り柄だからな、
「他にもある?
「えーっと…何だろう…
本当に何だろう
私は何に悩んでるんだろう
しばらく沈黙が続いて、私はその間首を傾げて
考え続けていた
「ないってことはないもんね、
だって、自分を傷付けてしまう程の事だよ?
こんなになるまでっ…
先生は腕にそっと触れて、
今にも涙が溢れそうだった
その姿にすこし私の目も潤んだ
でも本当に分からない
考えても考えても分からなくて沈黙が続く
その沈黙が少し気まずくて、そして何もかも言うのが怖くて足が震える。
どうにか落ち着きたくて左手を右手の爪で刺して、掻くような動作をする
そんなことをしていると外から足音がした
あれ?こっちに向かって来てるのかな
かちゃ、
「あ、すみません
扉が開いて顔を出したのは体育教師の先生
何かこの部屋に用があったのだろう
気の利く先生と、それを見ていた私はさっと
荷物をもって別室に移動した。
その時、花京院先生とその体育の先生が何か…
目線で空気の重さを伝えたような…
そんな気がした、
まぁ気にしないことにしよう
別室
「ごめんねーそこどうぞー
また先生の指す席に座る
「えっと、あーそうだ
他に何か悩みある?
例えば、忘れ物とか?私よくするしー
何か気にしちゃうとか?
「んー、
確かに忘れ物とか…多くて困っちゃいますね
「あー忘れ物ね、あれ?穂乃果ちゃんそんな
忘れ物多いっけ?
「よく忘れますよ
前日に用意とかする時も1つ何かがないと
それを見つけるまでパニックなりながら
探してます
「そうだったんだ…
穂乃果ちゃん、多分今自分で己の身を縛ってるみたいな感じだね。
鎖とかでぐるぐる巻きにされて身動きとか
取れなくなっちゃってる。
「忘れ物とかは本当に人間だから仕方がない部分もある。
でも今それでそこまで悩んでるなら、一回
『気にしない』ってのも手だと思うよ
「本当に無理しすぎちゃってるから一回休もう、
勉強とかほっといていいし、そこまで考えずに
会話してみてもいいと思う。
忘れ物だって全然していい
荷物とか前日にしないで学校に来てもいいよ
まぁ、そりゃ私は先生だからその場で何か言う
こともあるかも知れないけど、
そんなこと全然気にしないでいいからね
「……
私はそんな言葉をかけられたのは初めてで
どう答えればいいのか分からず頷くことしかできなかった。
「うん、あとは…ある?
あ、肩にも傷あるの言ってないや
「あの…えと、その…
言うのが不安で堪らなくて無意識に左手腕を掴む
「まさか右もやってるの?
驚く先生をよそに、私は惜しいぃ…場所が違う、
と、思った
「いや、右はやってないです
「右 <は>?
「えと、その…肩、左肩も…
「あららぁ、
えっと、その…その傷って見せてって言ったら
見せてくれる?
先生が少し気まずそうに言う
「全然大丈夫です
「あ、んー、じゃあ保健室行こうか
「はい
私の学校の保健室は男女別室で養護教諭は居ない
「女子保健室に入って「使用中」の札をかけた
部屋に入って私はシャツのボタンを外した
…先生がめっちゃ見てる
気まずいことこの上ない、
私はなるべくゆっくりボタンを外す
途中、先生が
「あぁ、ごめんガン見してた
って言って目を逸らした
勘がいいですね、笑
そう言って脱ぎ終わると私の肩の傷があらわに
なった
その傷は手首の傷とは格が違って赤くて少し腫れた傷が数本、
シミとなった深い傷も2本、
見るに堪えない姿だ
先生はまた少し目を潤ませて
「これ…、痛かったでしょう…
「ん…、
痛かったっけ?いや、痛かったはず
なら何で今、すぐ返事できなかったの?
「え、まぁそりゃやってる時は痛くないかも
知れないけど…
先生はすごく理解あるなぁー
「え、でもどうやって?
こういうこと?
多分どんな体勢で切っているのかの話だろう
先生はカッターを持つような手の形で肩を横に
切る動作をした
私はそうだと言わんばかりに頷いた
「これ最近の…?
「いや、先週より前です
「……じゃあ、深いんだね
「……
そう、確かに深い…でも、そんな悲しい顔で
言われるとは思わななった
先生は腕を軽く掴んで触っても良いか聞いたので
私は頷いた
そうすると先生はすらっとした綺麗な手の
チョークの粉が付いていない中指でそっと撫でた
「っ…
先生は何も言わなかった
「見せてくれてありがとう
そう言われてまた服を着直す
「今日は、もう帰りなね
保健室のドアを開けて先生が言う
「ありがとうございました…
私はそう言って軽くお辞儀をする
「今日は…帰ったらお菓子とか、好きなものを
いっぱい食べて、明日の用意もしないでもう
早く寝ちゃいな
「…はいっ
「また…その、切りたくなったり…もしくは
またやっちゃったら先生に言ってね
「今日みたいに放課後とか、先生。話いっぱい
聞けるからね
「もう1人で抱え込まないで、
初めて見た。先生のその雰囲気
私よりずっと儚くて、
ずっと切ない空気を纏っていた
「……はい、分かりました
先生さようなら
「うん、ばいばい
相談の後、私は水を買って教室で少し落ち着きを
取り戻してからいつもの道で帰った。