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朝。目が覚めたら、キッチンから爆音がした。 「ドガァァァン!!!!」
……うん、だいたい予想はつく。
「おいまろ!! なに爆発させた!!」
「愛や!」
「物理的に爆発する愛あってたまるか!!!」
キッチンの中はもう戦場だった。
粉まみれ。煙もくもく。まろはエプロン一枚。
しかも、エプロンの文字が「KISS ME」。
バカじゃねぇの!?
「まろ、それどこで買った!?」
「昨日、ネットで。“恋する男子の料理エプロン♡”って書いてあってな」
「買うな!! 絶対レビュー星1だろ!!」
「レビュー星4.5やで」
「高っ!?!?」
しかもよく見たら、まろの手には泡立て器。
でも泡立ててるの、なぜか卵じゃなくて水道水。
お前、なにしてんの。
「なに泡立ててんだよ……」
「愛情♡」
「もうその単語禁止な!!!」
テーブルの上には、黒焦げの物体。
「パンケーキ♡」と書いたメモが刺さっていた。
おい、これは炭だろ。もはや固形燃料。
「……食えると思ってんの?」
「愛があれば何でも食えるんや」
「愛って胃腸薬の名前じゃねぇんだよ!!!」
俺はため息をつきながらフライパンを奪った。
その瞬間、まろが後ろから抱きついてきた。
腰に腕回すな。熱いフライパン持ってるんだぞ。
「な、なにしてんの!?」
「手ぇ導いたる」
「料理教室のスキンシップみたいに言うな!!」
「ちゃうちゃう、こうやってお前の背中に愛伝えるんや」
「その“愛”何ボルトあんだよ!!!」
結果、フライパンが火柱を上げた。
俺の叫び声が家中に響いた。
「ギャーー!!」
朝からアクション映画。
***
消火後。俺たちは床に座って放心していた。
リビングが白煙で包まれ、警報機がピーピー鳴っている。
「……なぁ、ないこ」
「なんだよ」
「パンケーキって、焼くもんちゃうんか?」
「焼くけど!爆破はしねぇよ!!」
「なるほどな。愛、深すぎたんやな」
「そういうロマンチックいらねぇよ!!」
まろが真顔で頷いたあと、ふっと笑った。
「おもしれえ女✨️」
「どこ見て言ってんだよ!? 俺男だぞ!?」
「いや、心が乙女やろ?」
「どのタイミングで診断受けたの!?」
まろの脳内辞書、ぜってぇページ抜けてる。
***
そのあと、「仕切り直しや!」とまろが二回戦に挑戦。
俺はもう止める気力もなく、諦めてスマホいじってた。
数分後。
「ないこぉ! 見てみ!」
「……なに」
「奇跡のパンケーキ、完成したで!」
振り向くと、皿の上に高さ30cmのパンケーキタワー。
しかも最上段にマヨネーズでハート。
「……マヨ……?」
「愛や」
「もう何でも愛で片付けんな!!!」
まろはフォークを持って、俺に向けて言った。
「食べさせたる」
「いや、自分で食うって」
「ええから口開けぇや」
「やめろ近い!! そのフォーク危なっ!!」
ぷすっ。
フォークが俺の頬をかすめた。
痛い。ちょっと血出た。
「おい!!」
「あ、すまん! 愛が暴走した!」
「愛に物理攻撃力つけんな!!!」
まろは慌ててティッシュを取って、俺の顔を拭く。
近い。距離が近い。
息当たる。なんかくすぐったい。
「……なぁ、まろ」
「ん?」
「お前さ」
「うん?」
「おもしれえ女✨️」
「は?」
「いや、ノリで言ってみた」
「……へー、面白くない男✨️」
「言い返されたぁ!!!!」
その瞬間、なぜか二人ともツボった。
笑いが止まらない。
笑いすぎて腹筋が崩壊する。
「なにこの会話!?」「知らんけどめっちゃ面白いな!!」
「どっちもバカじゃん!!」「せやな!!!」
息ができん。涙出る。
笑いながら床に転がって、パンケーキタワーひっくり返した。
「うわっ! 愛が崩壊した!!」
「再構築しよか?」
「誰がそんなRPGみたいな修復求めるか!!!」
***
昼。
結局、焦げたパンケーキを粉にしてクッキー生地に再利用(という名の地獄)。
まろがオーブンに突っ込んだまま、変なスイッチを押した。
「ピーピーピー(高熱モード:爆発的愛)」
「そんなモードないわぁぁぁぁ!!!!」
10分後、オーブンが本当に爆発。
「ドゴォォォン!!」
粉まみれの俺たち。
まろの顔が真っ白になって、天使みたいになった。
「……ないこ」
「なに」
「俺ら、もしかして天に召されたんちゃうか」
「違う。ただの炭化現象だ」
「そうか。地獄の入口やな」
「お前の料理スキルがな!!!!」
笑うしかなかった。
もはや人生がギャグ漫画。
***
夕方。
片づけ終わって、やっと静かになったリビング。
俺はソファに倒れ込んで、まろはその隣でゴロゴロしてる。
「なぁ、ないこ」
「なんだよ」
「俺ら、朝から何してたんやろな」
「知らねぇよ……愛の戦争ごっこだろ」
「せやな。勝敗は?」
「人類の敗北だな」
「深っ! 急に名言出すなや!」
俺が目を閉じると、まろがぼそっと言った。
「……でも、楽しかったな」
「爆発三回したけどな」
「爆発の数だけ愛が育つねん」
「その愛、消防法違反だろ」
また二人で笑った。
脳がもう溶けてる。会話もまともじゃない。
それでも――なんか、楽しい。
くだらなすぎて、何も考えなくていい時間。
「なぁ、まろ」
「うん?」
「次、愛のカレーとか作る?」
「ええな! 爆発しやすいスパイス入れよ!」
「その“爆発”への執着やめろ!!!」
二人で腹抱えて笑い転げた。
涙出るほど笑って、笑いながら床で寝転がる。
「俺らさ、ほんとバカだな」
「バカでええやん。幸せってアホの特権やで」
「お前、たまに名言出すな」
「いや、今のも多分バカ発言や」
どっちにしろ、最高にくだらない。
最高に笑える。
脳死で幸せな、朝の終わり。
***
――この日、俺は誓った。
まろと一緒に料理はしない。
なぜなら、命が惜しい。
けど、また笑いすぎて腹筋壊したいとも思った。
たぶん、それが俺たちの“愛”なんだろう。
「なぁ、まろ」
「うん?」
「次はどんな地獄やらかす?」
「恋のフルコースや♡」
「やめろぉぉぉぉ!!!!!」
家中に俺の叫びが響いた。
そしてまた爆発音がした。
「ドゴォォォン!!!!」
……やっぱり、もうこの家ダメだ。