おんりーを病院に連れていってから、そろそろ1ヶ月がたつ。
医師から出された診断は若年性健忘症。
それによる出来事の一部を忘れる記憶障害。
軽度なら自然と記憶を取り戻す可能性が高いらしい。
でも───
カララララ
「おはよ、おんりー。」
「....おはよう、ございます...」
「僕のこと分かる?」
「...えっと...ど、ずるさん?」
「...うん。よかった、今日は覚えてたね。」
「...はい。」
「...今日はねー、バナナ持ってきた。一緒に食べよ。」
「....はい。」
「...どこか体に違和感とかある?」
「いえ...ただ、何かを忘れてる...みたいな、感覚がずっとしてて...でも、それが分からなくて。」
「....うん。大丈夫、ゆっくり思い出してこ。焦んなくていいよ。」
「...はい。」
おんりーは、日によって調子が違う。
良い日には僕のことも、おらふくんのことも覚えてる。
でも、悪い日には自分のことすらも覚えていないことまである。
何か、きっかけがあれば記憶を取り戻してくれるはずだと思って、
病室にこっそりバナナとか、なすとか、雪だるまのぬいぐるみとか、豚のシールとか、
見せてみたけど、どれもきっかけになってくれなかった。
医師曰く、とにかく受け入れるしかないとのこと。
今一番辛いのはおんりーだ。だから、僕が今諦める訳にはいかない。
いつかの調子がいい日に、おんりーが言っていた。
「ドズルさん。」
「んー?なに、おんりー。」
「...僕のこの記憶障害のこと、おらふくんには絶対に言わないでください。」
「....いいけど、どうして?」
「...いつか、病状が悪化し続けて、おらふくんのことも忘れちゃったら...一番悲しいのはきっと、おらふくんなので。」
俯きながら言う。
「...うん。」
「...だからせめて、俺のことは忘れてほしい。」
「....おんりーは、それでいいの?」
「...おらふくんが悲しまないのが俺の望みですから。」
儚げで、今にも壊れそう。そんな印象を受けた。
仲間にそんな顔をさせてしまうなんて。
「...絶対に、治す。そのために僕にできることなら、なんでもしてあげるから。」
「....ありがとう、ございます。」
そのときおんりーは、ふにゃ、と入院して初めて、少し安心したような笑顔をうかべた。
だから、今までおらふくんにも、メンバーにも伝えていなかった。
おんりーが記憶障害なのも、
入院していることも。
でもいつか、言わなければいけないんだろうなと、思っていた。
そして、その日は案外早く来た。
「ドズルさん!」
「...どうしたの?おらふくん。」
「どうしたの?じゃ、ないですよ。」
「....。」
「おんりーがどこにいるか、知ってるんですよね?」
「....知ってるよ。」
「...っ!どうして、僕に教えてくれんのですか?」
「それは...」
「....僕じゃ、だめだったんですか?」
「え....?」
「僕じゃ、おんりーの支えになれんかったんですか?頼りなかったんですか?」
だんだんおらふくんの目に涙が溜まっていく。
今にも溢れ落ちそうだ。
「僕は、おんりーのこと...ずっと、ずっと愛してるのに....おんりーは、僕のことっ....」
「それは、違うよ。」
「じゃ、じゃあ、なんでっ!」
「....もう、限界かな。」
「えっ...?」
「...いいよ。全部おらふくんには話すよ。でも、....覚悟はある?」
「...っそんなの、あるに決まってるじゃないですか。」
まっすぐな瞳でこちらを見る。
「....わかった。行こう。」