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いつものように理子さんの自宅へ、朝のお迎えに行ったときから、彼女の様子がおかしかったことには気がついていた。
口数が少なかったし何より、いつも腕を組んでくる彼女が、この日はしてこなかったから。
女性特有の気持ちの浮き沈みかなと、そのとき思ってはいたが――
夕方、なんとか仕事を一区切りし、彼女が勤める会社へ迎えに行って、顔をつき合わせた途端に、刺すような視線で訊ねられてしまった。
「克巳さん、私に何か隠してることない? ここ数日前のことなんだけど」
「数日前……?」
思わず口ごもるしかない。何故ならばそれは、稜と逢っていた日が含まれていたからだった。
「髪の長い女の人と、仲良さそうに歩いてるトコを、稜くんが見てるんだけど」
顎に手を当てて考え込む俺を見て、理子さんがイライラした口調で返答する。
「な、んだ……そのことか」
「なんだって、何その言葉。私、すっごく怒ってるのに」
(しまった、安心してしまってつい――)
頭を掻きながら、理子さんの怒りを鎮めるべく謝ってみる。
「悪かった、誤解をさせるようなことをしてしまって。その女性のことなんだけど、理子さんを送り届けて直ぐ傍のあの道路で、すれ違っただけの人なんだ」
「……稜くんから写真を見せてもらったから、場所はわかってる」
――写真なんて撮っていたのか!?
もしかして、彼が仕組んだ計画の可能性がある気がしてきたが、そんな考えは後回しだった。とにかく彼女の誤解を、今すぐなんとかしなければならない!
「理子さん、聞いてくれ。あのとき写真の女性とすれ違った瞬間に、俺に向かっていきなり倒れ込んできたんだ。慌てて抱き起こしてあげながら足元を見たら、ヒールの踵が壊れていて、とても歩きにくそうにしていたから腕を貸して、靴屋まで連れて行っただけなんだよ。彼女とはそこで別れたし、その後も逢っていない。信じてほしい」
(今考えると、どうもできすぎたシチュエーションだった。理子さんと早く別れさせたい彼が、第三者を使って罠を仕掛けていたなんて、かなりショックだ)
このときはなんとか誤解を解き、彼女をしっかりと送り届けてから、稜のマンションへ向かう。勿論、この件に関して文句を言ってやろうと、勇んで行ったのに――