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俺が祖国──韓国を離れ、日本にやって来たのは、2022年の3月半ばのことだった。
思えば、其処に至るまでが散々だった。親からは「国の誇りに泥を塗りやがって」と言われ、ネチズンからは「死ね」だの「殺す」だの罵詈雑言を吐かれ。挙句の果てに、かつて苦楽を共にした仲間達からは、「お前とはもう関わりたくない」と突っぱねられ。
孤立し、後ろ指を差されながらの、出国だった。
成田空港を後にし、向かったのは東京の高田馬場という場所。ガラガラと大きいキャリーケースを引き、漸く辿り着いた先は、街の一角にある小ぢんまりとした賃貸アパート。
俺は外付けの階段で最上階の3階に上がり、一番右端の部屋のチャイムを押した。そして扉が開き、現れたのは────あの頃から全く雰囲気の変わらない、4歳上の俺のチングだった。
「いらっしゃい、ヨンスさん」
「菊…………」
「長旅お疲れ様です。暫く此処で、ゆっくりしていって下さいね」
「…………っっ」
チング──菊の柔らかな声に、俺は視界が忽ち滲んでいくのを感じた。