「ねぇ、一緒にYouTuberにならない?」
そう言ったのは幼馴染の一人、緑山楓隼(みどりやまふうはや)。僕よりも少し背が低く、すらりとした身体つきをしている。唯一の島生まれ島育ちで、島のことをたくさん知っている。
「なに?ちゅーば?島言葉?」
そんな風に零すのは二人目の幼馴染、桃弥風音(ももやかざね)。今こそ島の風景に馴染んでいる彼だが、元はというと僕たちと同じように東京生まれの*余所者*ということになる。
「流石に島言葉じゃないでしょ!」
そう突っ込むのは三人目の幼馴染、紅野秀人(あかのしゅうと)。家は相当の金持ちなようで、自身でもアピールしてくる時がある。でも、スマホなどは持たされていないのが面白い。僕達が島の小学生だ。つまり、楓隼は僕等が移住してこなければ島唯一の小学生になるところだったわけだ。だからか、島の人たちは僕達に優しい。お菓子や野菜なんかは毎日もらえる。だから都会と離れた時代遅れの暮らしが、僕達は好きだった。
「ふふっ、見てよ」
そう言って楓隼は新品のiPhone7を懐から突然取り出した
「えー!凄っ!」
当たり前だ。時代遅れな島の生活に表れた「未来」なのだから。
「実は、先月買ってもらったんだけど中々持ち出すのを許してくれなくて」
「見せてよ!」
「いいよ!」
「ほら、りもも見てみろよ」
風音の手から、未来が回ってくる。
よくよく見てみると、見たことのないアイコンがたくさん並んでいる。
「時計は手動で合わせるの?」
そんな言葉を口にする。
「は、な訳ないじゃん」
「電波で勝手に合うんだよ」
そりゃそうか。今どき手動で合わせる時計なんて、僕の部屋にある旧式目覚まし時計くらいだろう。
あまりに時代遅れな質問を恥じつつ、未来を見る。
「なんか電卓みたいなマークもあるね」
そう風音が口にすると、
「もう、いい加減にしてよ〜!」
未来を前に、電卓や時計の話ばかりなのに耐えられなかったのだろう。その後も、楓隼が嬉々として色々教えてくれた。
_カメラだよ。
凄い!_
_Siriっていうのがあってね
なにそれ_
中でも僕らの心を掴んで離さなかったのは、指紋認証だった。
ボタンを押さなくても事前に指紋を登録しておけば丸いボタンに指を触れるだけで画面がつくのだ。
「僕の指紋も登録してよ」
そうお願いすると
「えぇ〜、なんで?」
「やってみたい」
初めのうちは嫌そうだったものの、何度も頼んだところしぶしぶ承諾をもらった。
「凄い、僕でも開ける…!」
「満足?」
「うん!」
ふと左が気になった僕は、楓隼に未来を返してねぇ、と声を掛けた
「何?」
こっちも見ずにそう言う秀人の姿は不機嫌そのもの。
「そういう動画ばっか見てるとバカになるんだよ」
「そうかなぁ?」
と、楓隼がiPhone7を横にして動画を再生する。
_今からこれを開封していきたいと思います!
_何ヶ月か空いてしまいましたが、きっと大丈夫!
そう喋るのは、画面の中の男の人。
今見たのは30万人ほどが見ているそこそこ名の知れたYouTuberで、YouTuber界のトップ「ふるはうす☆デイズ」にもなると2000万人が見ているらしい。
ふるはうす☆デイズは「リアルガチ」を謳ったリアル子育てドキュメンタリーで、結成10年目だそうだ。
「とにかく!楽しい動画で視聴者を楽しませるのがYouTuberなの!」
「島育ちの男子4人組なんて、ウケると思わない?」
確かに、都会民にとっては島暮らしのインパクトは高いだろう。
「あれ、秀人のGoPro…」
「コレはいつも親に持たされてるだけ!」
「僕らが大きくなったらやってみようよ!」
その時だった…
「居た!ついに見つけた!みなさん!ついに伝説の小学生を見つけました!」
そう言ったのは痩せ型でピンク色のモヒカンの男だ。
「一緒に写真撮ってくれない?」
と言う。写真くらいはいいか。
「いいですけど…」
と風音が男の隣に立つ。
それを追おうと、足を運んだとき。
秀人が叫んだ。
「逃げるよ!」
「え、あぁ……」
僕達はその勢いに圧倒されて逃げ出した。
「あ、待って!…クッソ、企画失敗じゃねぇか…」
そんな声がした気がした。
「って感じかな…」
前にいる母親が頭を抱えている。殺された人のことをまだ疑っているのだろうか。
いや、どっちかと言うと言うことは決まっていて、どう言葉にするか考えているのかな…
「楓隼くんと仲良くするのは…考え直した方が良いと思うな」
「え、なんで」
「ママも秀人君と同じ意見だから。せっかく気持ちが良いのにそんな動画見せられたら台無しよ。楓隼くんのお母さんに、も言っておこうかしら」
明らかにおかしい。何を言っても、何も言わなかったのに。
YouTubeの話をしただけでコレだ。急に異変すぎる。
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