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朝、カーテンの隙間から射す光がまぶしくて、目を細めた。
また、今日が来た。
昨日と同じように、ため息から始まる一日。
誰も、自分の存在なんて気にしていない。
クラスでも、透明人間みたいな扱い。
何をしても「空気」みたいに扱われるのが当たり前になっていた。
——どうして、自分は生きてるんだろう。
そんな言葉が、頭の中をふとよぎる。
でも、喉の奥に詰まって出てこない。
出したら終わってしまう気がするから。
昼休み、教室を抜けて屋上へ行った。
フェンスの向こうに広がる空は、やけに澄んで見えた。
風が頬を撫でる。少し冷たい。
この冷たさだけが、いま「自分がここにいる」証みたいで、
なんだか、ほっとした。
足元には、小さな鉢植えが一つ置かれていた。
誰かが育てているらしい、小さなスミレの花。
前に来たときは、まだつぼみだったのに。
今日は一輪、ちゃんと咲いていた。
——きれい。
思わず、そう呟いた。
たったそれだけで、胸の奥の何かが少しだけほどけた気がした。
苦しいことばかりだけど、
世界のどこかには、こうして小さくてもちゃんと咲くものがある。
放課後、夕焼けが校舎を赤く染めていた。
帰り道で、道端の猫がこっちを見て「にゃあ」と鳴いた。
手を伸ばすと、逃げずにすり寄ってきた。
あたたかい。
小さな命のぬくもりが、
確かに自分の手のひらに伝わってくる。
その瞬間、なんとなく思った。
——今日は、悪くなかったかもしれない。
それだけで、少しだけ笑えた。
ほんの少しだけ。
☁️END|ささやかな喜びEnd