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15
「駿斗!」
いつも通りに声をかけた。けれど、いつもならすぐに破顔して振り返ってくれるはずの駿斗は、スマホの画面に視線を落としたままだった。
「ごめん空大、今チャット中だから」
見向きもしない。その冷淡な態度に、僕の胸の奥で冷たい警鐘が鳴り響く。
耐えかねて駿斗の手からスマホを奪い取ると、画面には見知らぬネット掲示板が開かれていた。
対話相手の名は「梨樹(りず)」。
スクロールする画面には、「好き」「早く会いたい」という甘い言葉が、駿斗の熱を帯びた文字で羅列されていた。
頭の芯が、一瞬で沸騰する。
僕が何年も欲しくて、どんなに喉から手が出るほど渇望しても得られなかった言葉を、駿斗は顔も、素性すらも知らない画面の向こうの相手に、惜しげもなく捧げていたのだ。
「――っ、何なんだよ、これ!!!」
怒りと嫉妬が理性を焼き尽くし、僕はスマホを床へと叩きつけた。
ガシャン、と画面が派手にひび割れる鈍い音が室内に響く。
「な、何するんだよ空大……! 梨樹さんとの約束が……!」
「梨樹、梨樹、梨樹、梨樹、梨樹ッ!! うるさいんだよ!」
駿斗の言葉を荒々しく遮り、僕は掴みかからんばかりに怒号を浴びせた。
「こんな顔も見えない女に恋してどうするんだよ! 駿斗は、女に恋するのかよ……!?」
裏返った僕の声に、駿斗は本気で怯えたように、そして心底理解できないというように、目を丸くして言葉を返した。
「な、何言ってるんだよ空大……? 男が女に恋するのなんて、当たり前だろう……?」
当たり前。
その無垢で、残酷な四文字が、僕の胸の拠り所を完全に粉砕した。
僕の心が、ガラスのように粉々に壊れる音が聞こえた。
「……当たり前、じゃない……」
蚊の鳴くような小声でそれだけを絞り出すと、視界が歪み、堰を切ったように涙が溢れ出してきた。
これ以上、こいつの顔を見ていたら、本当におかしくなってしまう。
僕は自分の顔を覆うようにして、その場から全力で走り去った。
背後から僕を呼ぶ駿斗の声が、遠ざかる視界の中で、ただ虚しく響いていた。
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