もし僕に影があったのなら何色だろうか。あの人の影と僕の影が重なった時、その中に僕の、僕だけの影の色があったのだろうか。
そんな事を妄想しても結局は透けている。
今、僕の恋影はずっと、あの人一色なのだから。
夏の暑さが滲み出る部屋で一人の少女は言う。
冬の匂いが恋しい、と。
時は戻り寒い冬の外でまた一人の少女は言う。
夏の匂いが恋しい、と。
春と秋の時期は何も言わないのに、夏と冬だけ真逆の季節を求めているみたい。
でも僕はずっと夏が好き。
だって飴玉が美味しいから。
飴玉なんていつでも美味しいって?
夏は格別なんだ。
眩しい太陽の光が飴玉を貫通して綺麗な水色の影を落とすんだよ。
でも冬は日があまり差さないからその影は見えない。
見ても食べても美味しい飴玉の方がお得でしょ?
だから僕は夏が好き。
今日は冷たい空気が突き抜ける日。
人がいなくなったこの部屋で誰かを待つ。
僕に意味という影を落としてくれる誰かをずっと待っている。
『え?』
戸が開いた。
一人の女性が驚いた顔で固まっている。
『お姉さん誰?』
「わ、私は唯月!君は?」
『透宮天』
「あめくんか、可愛い名前だね…!」
左手で髪を耳にかけ、僕に笑いかけている。
とても温かいその姿に見惚れてしまう。
「こんな所で一人なんて…何かあった?」
『別に…何も…』
「そっか」
たった一言だけ返事をして、静かに僕の隣に座った彼女からは冷たい僕と真逆な雰囲気がした。
優しかった。
『唯月さんは何でここに来たの?誰かのお見舞い?』
「うん!おばあちゃんのお見舞いに来たんだけど間違っちゃった」
ここは使われなくなった”病室”。
間違える以外でここに来る人なんていない。
『…行かないの?』
「私が勝手に行ってるだけだし、それに私が行っても…喜んでくれるわけじゃないし」
孫がお見舞いに来てくれてるのに喜ばない?
認知症か何かなのかな。
「あめくんはどうしてここに居るの?」
『ここは僕の遊び場だから』
「遊び場?」
『とにかくここは僕の部屋なの!』
「そうなんだ…」
僕はここから動きたくないし、動けない。
…でも少しだけ、また外に出てみたいな。
「また来るね、あめくん」
また来るね…本当に、来てくれるのかな。
ただ一人、ずっとここにいる。
親も、看護師も、医者も、誰も来ない。
もう僕なんかどうでもいいみたい。
元気な身体に産まれていれば独りぼっちじゃなかったのかな。
『はぁ…早く消えたい』
今日はもう寝てしまおう。
明日の事はまた明日考える、それでいい。
おやすみなさい……。
コメント
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ぎゃぁぁぁぁぁ←テンション爆上がり ニマニマしてる自分を殴りたい…() えへへへヘ((((( 投稿ありがとうございますっ!