次の日から、おんりーの病状は一気に改善した。
そして一週間が経ち、やっと
「うん、もう退院しても大丈夫ですね。おめでとうございます。」
「えっ….ほ、んとですか….?」
「はい。」
「わぁぁ!おんりぃ!!」
思わず、おんりーに抱きつく。
「わっ…ふふ。」
おんりーが微笑みながら、頭を撫でてくれる。
いつものおんりーだ。
ぎゅうっと強く抱き締める。
「…じゃ、ドズルさんに迎えに来て貰おっか。」
少し恥ずかしそうな顔で言う。
「うん!」
『えー!ほんと!よかったぁ…』
「はい。なので…」
『あ、すぐ迎えにいくよ!ちょっと待ってて~』
「ありがとうございます。」
『じゃ、またあとでね。』
「すぐ来てくれるって。」
「りょーかぁい。」
「ドズルさんがくるまでに荷物まとめとくね。」
「あ、僕も手伝うよ!」
「そう?ありがと。」
「この机の中ってなんかある?」
「あ、いや、そこは…!」
珍しくおんりーの慌てた声が聞こえる。
「えー?なにがあるんー?」
逆に何があるのか気になって机の引き出しを開けてみる。
どんなものを隠しているのかと思えば、そこにあったのは
一冊のノートだった。
「…ノート?」
「あ、いや、….」
「…見ん方がいい?」
「…っ」
どちらかと言えばNO、みたいな顔をしている。
「….まあ、おんりーがそんなに見られたくないんならええよ。ちょっとした好奇心やから。」
「…いいよ。」
「え?」
「…見ても、いいよ。いつかは見せるつもりだったから。」
「…ホントに、ええんやね?」
「…。」
コクン、と頷く。
最初のページを捲る。
そこに綴られていたのは、入院していた間のおんりーの日記だった。
だいたい一日に二、三行のペースで書かれている。
ただ、日付が所々とんでいるところから、元のおんりーの時だけ日記をつけていたらしい。
そこには、おんりーの本音が詰められていた。
○月△日
今日から、ドズルさんに勧められた病院に入院することになった。本当は、おらふくんにも伝えた方がいいんだろうけど、心配させたくないし、おらふくんのことを忘れた俺に会ってほしくないから、言わずに来てしまった。
○月 日
この日記のことを思い出したので、また書く。今日はご飯がおいしかった。おらふくんとゲームしたーい。
○月 日
ドズルさんに、おらふくんには言わないでほしいことを伝えた。俺のことは忘れてほしいなんて言ったけど、本当は忘れてほしくなんてない。でも、それでおらふくんがまだ傷つかずにいられるなら、それでいい。
○月 日
ドズルさんが会社のパソコンをこっそり持ってきてくれた。一緒にマリカーした。かなり久々だったけど勝てた。いつか、治ったらおらふくんともしたいな。
そして、俺がおんりーのことを知って、病室に行った日のことが書いてあった。次の日の朝にこの文章を書いたらしい。
ここだけ、少し文章の量が多い。
□月 日
ドズルさんが、おらふくんに俺が入院していることを伝えたらしい。初めて病室に来てくれていたらしい…けど、俺はおらふくんのことが分からなかった。…だから、言わなかったのに。おらふくんを傷つけてしまったかもしれない。…もう、来てくれないかもしれないけど、その方が良いのかもしれない。本当は、もいおらふくんに会えないなんて嫌だけど、でも、おらふくんのことを忘れた俺はもうおらふくんと居ていい俺じゃないから。
やっぱりおらふくんに会いたいって思っちゃうのはわがままかなぁ。
文章の最後の方に、涙が滲んだような痕がある。
そして次の日からは、日付がとぶことなく日記が書かれていた。
□月1日
今日も、おらふくんが病室に来てくれた。昨日、辛い思いをさせてしまったはずなのに。やっぱり、優しい。絶対とか、約束とかしちゃったけど…明日の俺が覚えててくれるといいんだけどね。
□月2日
珍しく昨日のことを覚えている。もしかしたら記憶障害が治ってきているのかも。早く家に帰りたい。
□月3日
やっぱり治ってきてる!もの忘れも無くなってきたし、そろそろ退院できるかもって言ってもらえた。やったぁ!
□月4日
今日はおらふくんと一緒にお菓子を食べた!そういえば、自分のチャンネルのこと完全に忘れてたけど、どうなってるのかな。
□月5日
もう完全に治ってると思うけど、まだ様子見で入院しとかなきゃいけないらしい。あとちょっと。
□月6日
明日、検査して異常が無かったら帰れるらしい。やっと家に帰れるかも。おらふくんと暮らせる日々が帰ってくるかな。
ここで、日記は終わっている。
「おんりー。」
ノートを閉じて、振り返る。
「….なに?」
言葉より行動で示した方が早い。
窓際に立っているおんりーを強く強く抱き締める。
今はただ、おんりーが愛おしい。
「…っおかえり、おんりー。」
「…ただいまっ….!」
おんりーの腕が自分の腰に回されて、少しだけ、涙で肩が濡れる。
「…落ち着いたら、帰ろ。」
「グスッ….うん。」
「それまでずーっと抱き締めててあげる。」
「…ありがと。」
もう絶対に離したくない。
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もっと伸びるべき作品や…