鋼鉄の鎖で覆われた薄暗い牢獄の集結する薄暗い牢獄。其処に唯、甲高い靴の音が木霊する。
換気のために設置された小窓からは蒼白い光が差し込んでおり、囚人共の正気の無い無機質な顔を映し出す
コツ……コツ……コツ……コツ……と規則正しく鳴る一つの音に、ありとあらゆる有象無象を喰らい尽くす穢れたケダモノ達が一斉に私を睨み付ける。
「囚人共、静粛にしてくれるかい。私は忙しいんだ。」
開けろ、開けろと飽きもせず五月蠅く牢獄を鳴らし懇願する野獣達は此方からして見れば、ただただ、滑稽だ。
崇高たる理想を大っぴらに掲げた政府の犬。其れが今の私だ。
精巧に造られた身体を存分に使い、此処迄の地位まで成り上がった。這い上がったファム・ファタール
ドス黒く染まった紙切れで私の頬を叩けど、彼等は口を合わせて言う。一体、誰の所為だと。
暫く、暗く澱んだ混沌を踏み付けて居たが、とある男の異質なオーラに目線を左に晒した
「お早う御座います、ニコラーシャ。今日は浮かない顔をして居ますね。
何かお有りで?僕で良ければ是非、お聴きしますよ。貴方とは長い付き合いですからね。」
其の獣共の中でも、一際異質な存在。牢獄から出ようとともしない此の男は”魔人ドストエフスキー”、看守達の中でも警戒されている兇悪な殺人鬼だ。
「厭、態々[[rb:看守> 敵]]である私にお気遣い頂き有り難い処……だけれども残念、遠慮しておくよ。”魔人ドストエフスキー”さん。私は[[rb:ケダモノ達 > 君達]]の監視で忙しいんでね。済まないね。」
軽く彼を受け流して、手をヒラヒラと振り翳す。けれども、創り出された余裕は壊れつつあり、僕の聲は情け無く震え出していた。
「…………そう、ですか。」
彼は興味が無いのか。外方を向いて黙り込んでしまった。
手にした小難しい単語の羅列がりっする本へと意識を向けた彼に対し、くるりと回り背を向け、ゆっくりとゆっくりと踏み締める様に地面を辿った。
「虫酸が走る……下衆共が。」
嗚呼、何故此の鯨睨共に相応しき天誅が下されないのだろうか。度々僕はそう、憂いていた。
罪の亡き清き者の尊き生命が喪われ、狡猾で下衆な鼬鼠が極樂を啄む。そんな此岸が赦されるだなんて………僕は信じられなかった
何も正義感が特別強い訳でもない。一般人と大差無い……ただ、愛する人を助けたいだけに過ぎないのに
ガッタン
……そんな、地響きがして、世界が揺れた。そう思えど彼は眉一つ動かさず、俯いていた
彼と僕。光と闇を取り仕切る分厚い境界線が閉じ、電球による人工的な明るさに私の身体が包まれた
「はあ………、」
先程迄の凛とした雰囲気を脱ぎ、一気に肩の荷を下ろした私は休憩所に設置されている寂れたソファへと思い切り身を投げた
そんな私に見切りを付けたのか。太宰君はくすり…と苦笑を見せ、自身の小洒落たティーカップを絶妙な角度に傾けた
「相当お疲れの様だね。ニコライ。たった今、ローズティーを淹れた処なんだけれど、君も一杯どうだい?」
「…………嗚呼、有難う太宰君。御言葉に甘えさせて戴くよ。」
私は俳優でも、なんでも無い。ただ貪欲に”正しさ”を追い求めるだけの存在。裏表迄とはいかないが、勿論[[rb:看守達> 同僚]]の前ではほんの一寸ばかし、本来の私が顔を見せる。
「_____甘い。」
こう、リラックスして此処最近を振り返ってみると……余り、睡眠が取れていなかった
ざらざらとした肌触りの余り良く無いクッションに身を包まれていようとも、其れが原因で簡単に意識を手放してしまった。
「はぁッ……!…ふ、…はぁッ……!」
「ん”…ぅ……え…ッ、、?な、何…やって…?」
はらりと身体から剥がれ落ちる衣、彼の震えつつ熱の籠った溜飲と吐息、ぐちゅぐちゅと忌々しい粘り気の有る音を奏でながら彼を喰む自分自身の身体。
パチクリと瞬きを繰り返す僕に彼はニヤリと怪しげな笑みを浮かべて、僕の唇を塞いだ。
「嗚呼……私のニコライ、そんなに強がってしまって…偽っても私には手に取るように君の全てが解るよ…。」
「へ、?だ、太宰君……?な、なにしてる、の?」
「何って…愛の行為だよ。私と君の様に”運命”で結ばれた番……要するに[[rb:夫婦 > めおと]]ならば、夜な夜な身体を繋げて燃え切れて仕舞いそうな程の熱烈な愛情を告白し合うのも可笑しく無い話ではないか。
……………其れなのに、何故…君は、夜な夜な独房の扉を開けて…君が最も嫌う鯨睨であるあの魔人…[[rb:ドストエフスキー > 溝鼠]]と交わっているんだい、?私と云うフィアンセが居ながら……!!」
「応えは簡単……其れは君とあの[[rb:魔人 > 溝鼠]]が恋仲だからだよね?」
困惑し、涙を流す私が見えて居るのに、彼はつらつらと訳の分からない言葉を垂れ流し、狂気が宿った虚ろな瞳で此方を見つめる。
………図星だ。確かに私は夜な夜な魔人ドストエフスキー、厭…フョードル君の独房の牢を開き息を顰めて交わっていた。何故かって?其れは彼が言う通り彼と私が恋人関係にあるからだ。
「ゴーゴリさん!!ゴーゴリさん!!」
嗚呼……ガタガタと彼の独房の扉が揺れ、壁が激しく叩かれる音がする。
「………ごめんね、フョードル君、僕は君を[[rb:無罪> 自由]]にしてあげれなかった、」
其の一言は誰にも届かず僕等の夢と共に壊れて消えた
コメント
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あば!ドスゴーと太ゴーじゃないですか!?だざむぅ、嫉妬しちゃったのですか?可愛いですね。はい。 そしてドスゴー!君達の禁断の恋! (なんか囚人と見張り役?の人って付き合えないらしい)最高ですよねえはい!今回もありがとうございます!