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第一話 『拝啓 未来の自分へ』
蒸し暑く、埃が宙を舞う屋根裏部屋。
外から聴こえる、五月蝿い蝉の声。
額を伝う汗を拭いながら、荷物を整理する。
実家を出た際に家に置いて行った物を、この機に断捨離することにしたのだ。
お盆は過ぎ、8月の後半に差し掛かりつつある。
配信も、撮影もない今日、久々に実家に帰省している。
段ボールに詰めている時、固い箱に手がぶつかった。
「痛っ…何これ、木箱?」
謎の箱を屋根裏部屋から降ろし、自室で開ける。
埃臭い、古びた木箱。
その中には、変色した封筒が入っていた。
「…えっと…写真?」
「未来の自分への手紙ぃ?」
全員の声が揃い、全員が小さく笑った。
昼過ぎのファミレス。
休日だから、親子やカップル、友人と来ている人で店は混んでいた。
「僕もそれ書いたで、おんりーも同じなんやな!」
「なんかそういう将来に関する授業あるよな、俺何書いたか覚えてないや」
おらふくんとmenも同じなんだ、と少し驚いた。どこの学校も考えは同じなのだろう。
「へぇ、最近の子は洒落たもんやってるんだね〜」
謎に感心しているぼんさんは、手にしたコーラを流し込む。
「とにかく、その手紙は読んでみたの?」
ドズルさんに問われる。
「一応、全部読みましたよ」
「おんりーのことだから、真面目に書いてるんじゃないのぉ?」
menに茶化された。
ドズルさんも、うんうんと頷いている。
「いや…それが…」
封筒の中身を取り出して、机の上に置く。
「…これ、おんりーの写真…?」
「そうです、12歳の俺です」
「入学式の写真?」
そこに写っているのは、サイズが大きい学ランを着た自分。
「でも、なんでこれが封筒に入っていたの?」
「それがわからなくて…」
「おんりー、封筒になんか書いてあるよ!」
「え?」
封筒の表面をみると、昔の自分が
「拝啓 未来の自分へ 」
と書かれている。
「まって、この写真の裏‼︎なんか書いてあるやん‼︎」
おらふくんから写真を受け取り、文を読む。
「えっと…『思い出の丘の桜の木の根元に手紙を埋めました』って…」
部屋がしん、と静まる。
「俺、探しに行こうと思います。」
「こんな手紙があるってことは…昔の俺は、今の俺に何か伝えたいのかもしれないから」
「…俺も行くよ」
2度目の沈黙を打ち破ったのは、menだった。
「後輩が困ってたら、こういうのは先輩が助けるもんや‼︎」
「men…」
「menにそう言われちゃ、僕も助けるしかないよ〜‼︎ね、ぼんさん‼︎」
ドズルさんが満面の笑み、というか、含みのある笑みを浮かべ、ぼんさんの肩に手を置く。
「…ごほごほっ‼︎…ぁっ…あぁ、後輩が困っているのに助けなくてどうする‼︎」
喉に飲み物を詰まらせたようで、咽せているぼんさん。
ドズルさんは、ちょっとぼんさんもうおじいちゃんですか?とぼんさんの背中を叩いている。
「…僕もそれ行きたい‼︎面白そうだし、おんりーの為だし‼︎」
おらふくんはいつもの明るい調子で、俺の手を握り、握手をしてきた。
「よぉし、やるぞー‼︎」
ドズルさんが小さく叫び、手を出す。
それに合わせて、 全員が手を重ねる。
「おー!」
そして、高々と手を挙げた。
昔の自分が未来の自分へ宛てた手紙を見つける旅が、幕を上げた。
〆切守りません
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