コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
.
マフラーをぐい、と口元が隠れるように引き上げる。
それと共にびゅう、と心臓まで達してしまいそうな冷風が私の耳たぶを切り裂いてゆく。
こんな日は外に出るのが億劫になってしまいそうだ。
風が強くなる度に、私の頬は炭酸が弾けるように泡立っていく。
実際どうなのかは分からない。
炭酸は二酸化炭素から成り立っているらしいし、私が今現在吐いているのも二酸化炭素。
なのに炭酸にならないのは、どうしてかは分からないけど。
『 玲王 』
「 ん? 」
名を呼ぶと先を歩く君の黒髪が揺れる。
顎先まで伸びた髪の毛を結うヘアゴムは、私がプレゼントしたものだった。
『 お誕生日おめでとう 』
「 何回目だよ、ソレ 」
ふは、と笑いが溶けてゆく。
君の笑った顔が好きだ。
君の誰に対しても変わらないその優しさが好きだ。
君は、私の好きなところはあるの?
『 ねぇ、玲王 』
「 なに、夏炉さん 」
『 名前でいいってば 』
「 じゃあ詩葉さん 」
『 どうして私に構うの? 』
「 んー…どうして、か 」
いつだったか、御影コーポレーションは偽造された熱愛報道ゆえに倒産、その一人息子の御影玲王は身を隠しながら生きている。
両親は海外に飛び、彼も海外に飛べばよかったのに。
「 君のSPだから、が無難かな 」
『 SPなんていらない 』
『 玲王は玲王のままで生きて欲しい 』
また風邪が吹き荒れる。
まるで、私たちの存在を消し去ってしまうように。
「 それが無理なんだわ 」
「 俺は一生詩葉さんに雇われの身だから 」
『 ねぇ玲王、私玲王が好きなの 』
「 え 」
『 雇いたくない 』
『 一人の人として玲王を愛したいの 』
「 …うん 」
寒い。
もう手の感覚がない。
『 一緒に逃げよう? 』
私の両親は過度の心配性で、それでいて最低最悪な人間で。
あの報道の後道端で見つけた玲王を脅し、私のSPとして毎日毎日雇っている。
「 …ダメだ 」
「 詩葉さんまで巻き込むことになる 」
『 もう、私達は巻き込まれてるんだよ 』
『 パパとママに、ううん。あの人達に』
「 けど 」
『 お願い 』
『 雇い主からの頼みなの 』
君は、産まれて初めて喋った赤ちゃんを見るように目を見開いてから
優しく弧を描いてこう言った。
「 俺、今日死ぬからダメだよ 」