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その日、3人は演奏をやめられなかった。
止めたら、にっこり笑って近づいてくるのだ。ものすごいスピードで。
ギターを休めようとした若井に、“それ”が顔を近づけて一言。
「さぼったら……イヤ」
「わかりましたぁああああ!!!弾きまぁぁす!!!」
藤澤も、鍵盤に手を乗せながら震えていた。
「これ、ライブより疲れるんだけど……!元貴、どうすんの!!」
大森はマイクに向かってひとこと。
「――じゃあ、“あなたのための歌”を作るよ」
その瞬間、“それ”はふわりと消えた。
静けさが戻る。
「……え、なに?成仏したの?」
「たぶん満足したんだよ。ほら、感動して泣いてたし」
「霊が?泣いてた!?感受性どうなってんの!?」
その後、3人は無事に下山。あの山小屋はもう使われていないという。
でも――
「ねえ、またあの曲、やろうよ」
リハ中、大森がふとつぶやいた。
「まさか、あの霊のために?」
「“あなたのための歌”って言っちゃったし」
「いやいや、もう浮かばれただろ!」
「てか来たらどうするの!?客席に座ってたらどうするの!?」
「あの霊、最前列でクラップとかしてきそうで怖い」
そんなことを言いながら、3人は笑っていた。
音楽が鳴れば、何が現れたって、大丈夫。
きっと――彼らの音に、救われる“何か”がまた、どこかで踊っている。