瓦礫の海と化した王都イリディア。かつて白亜の尖塔が輝いていた場所に残るのは、焦げた石材と血の臭い。魔王レオナルド率いる黒き軍勢が引き起こした蹂躙は、わずか三夜で伝統ある都市国家を灰塵へ還していた。
光の騎士ルークは一人、崩れ落ちた城門前に膝をついていた。黄金の鎧は煤と裂傷で黒ずみ、腰に吊っていたはずの聖剣ファルシオンは柄のみ。刃は折れて敵将の足元に転がっている。最後の一撃を受けた左肩から噴き出す血が、石畳を赤黒く染めていた。
「見ろよ! これが勇者の末路だ!」
「聖剣持ちが何の役にも立たなかったぜ!」
嘲弄が響く中、ルークは震える拳で地面を叩いた。
「まだ……っ」
突然、笑いが止む。
影のように濃い気配が差し込んだ。漆黒のマントを翻して現れたのは、氷より冷たい紫水晶の瞳を持つ男、レオナルド。禍々しい角と鱗状の肌を持つ彼は、人間の王よりも高貴な存在だった。
「ほう」
レオナルドの声は毒蛇の滑りのように甘く鋭利だ。
「まだ息があるのか、神子の駒よ」
「……魔王……!」
ルークの碧眼に憎悪が灯る。
「お前の首を刈ってやる……必ず……」
「俺でもできるのか?」
レオナルドが嗤った。指を鳴らすと、空気が歪み、見えない鎖がルークを締め上げた。喉を潰されながら宙吊りになる彼の前で、魔王がゆっくり近づく。
「面白い。死にかけのくせに牙を剥くとは」
レオナルドの爪がルークの顎を持ち上げる。傷口に指が触れる。
「痛むだろう?」
ルークは歯を食いしばった。
「離せ……!」
「離さぬ」
レオナルドの唇が歪んだ。
「この獲物には価値がありそうだ。我が居城まで運ぶとしよう」
爪先を動かすと、魔法陣が閃き、戦場に血溜まりだけを残して二人の姿は消えた。
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