____ガチャリと扉を閉めた。太宰は家へ連れ込んだ中也の髪を、足早に持って来たタオルでわしわしと拭く。太宰より20cmほど小さい中也は、簡単にタオルに包まれる。ふかふかなタオルを肌で感じながら、中也は口を開いた。
「貴方の…名前は?」
「ああ、そういえば名乗っていなかったね。私は太宰治。18歳だよ。」
中也は太宰の答えにキラキラと目を輝かせた。
「治…治…、治っ!!」
「うん、治だよ〜。」
太宰の名前を知れたのが相当嬉しかったのか、中也は何度もその名前を口にする。顔をふにゃりとさせて、心底嬉しそうに笑った。
「俺、16歳!」
「16かぁ、私より2個下なんだね。」
中也はこくこくと頷いて、またふにゃりと笑う。こんなにも愛くるしくて可愛いのに、中也の親は非常に勿体ない事をしたな。と、太宰は心の中で思った。喋り方も、16歳にしては幼いし、きっと学校にも行かせて貰えなかったのだろう。
「中也、文字は書ける?」
その問いを聞いた中也は、うーん…と可愛らしく首を傾げ、
「『あ』と『い』だけならっ!」
と言ってはにかんだ。太宰はそれから色々な質問をした。中也は、やはり学校には行けなかったらしい。1日だけ登校した事があるようだが、その珍しい橙色の髪色と、サファイアのような青玉の色をした瞳のせいで虐めに遭い、元々お金の無かったその家では学校へ行くお金など殆ど無く、次の日からはもう行けなくなったという。母子家庭で兄が一人、姉が一人。4人家族で何とか暮らしていたが、みんなストレスが溜まって居たのだろう。純粋無垢でキラキラしている一番下の中也に腹が立ったのか、中也が3歳の頃から、3人で虐待をし始めた。終いには、家を追い出され、行く宛てもなく街をさ迷っていたらしい。
「俺の親は、もう俺なんかいらないって言ってたから…。治が拾ってくれて嬉しかった。」
中也はそう言って寂しそうに笑う。青玉色の瞳がゆらりと揺れた。
「そう、か。辛かったね。」
「うん。でももう大丈夫、治がいるから。」
太宰はこんな孤独な人間でも、自分のことを必要としてくれる人がいることがとても嬉しくなった。この子を一人にしてはならない、守らなければ、と本能で感じた。太宰はまず、棒のように細い中也の体を満たす為、ご飯を作る事にした。今あるのは卵とご飯と最低限の調味料。そして飲み物。買い出しには最近出掛けていないため、あるのはこれだけだ。
「うーん…、あ、オムライス!」
野菜や肉はないが、ご飯と卵、調味料があればお腹を満たすのには充分だろう。先ずはチキンライスを作る。太宰は昨日余って、そのまま炊飯器に入れて置いた米を取り出した。それからフライパンに米を入れ、パサパサになるまで炒め、ケチャップを大さじ4加える。その次は卵。フライパン全体に広げ熱する。十分に熱したら、その上に先程作ったチキンライスを乗せ卵で包む。それを皿に乗せれば…、
「よし!!出来たっ!」
太宰は作った2つのオムライスを、机の上に置く。そのチキンライスの香ばしい匂いに、中也が近ずいてきた。
「お待ちどうさま〜!治特性オムライスで〜す!」
「ふぁぁ!!た、食べていいの…?」
中也は目を輝かせながら、太宰を見る。具のない素朴なオムライスだが、中也からすれば豪華で贅沢な食事のようだ。
「うん!どうぞ!」
太宰がそう言うと、中也は目にも止まらぬ速さでオムライスに食らいつく。箸は使わず、手で鷲掴みにして口に入れた。太宰はその様子を見て急いで中也の腕を掴む。
「ちょっ、ま、待って!」
「…?」
中也は首を傾げた。
「いいかい中也、ご飯を食べる時は『いただきます』と言うんだよ。」
「…い、た、だ、き、ま、す? 」
一言一言区切りながら口にする。初めて聞いたその言葉に、戸惑いを感じている様だ。
「それと、ご飯は手じゃなくて箸で、ね?」
「…はし…?」
太宰はオムライスの横にある箸を指さす。
「これが箸。こうやって持つの。」
「うぅ、こう…?」
中也は初めて持つ箸を、一生懸命カチカチと動かす。太宰に教わって行くうちに、段々と持てるようになって来た。
「そう!中也は物覚えが早いね。」
「えへへ」
太宰に褒められた中也は、ほんのり頬を赤らめて嬉しそうに笑った。本当によく笑う子だ。その太陽の様な明るい笑顔は、太宰の心をぽかぽかと照らして行った。
「じゃあ、食べようか。」
「うん!」
2人は手を合わせる。
「「いただきます!」」
太宰と中也の元気な声が、部屋に響き渡った。
____𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭…、
コメント
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続きよろしくお願いしますm(_ _)m
続きはよ続きよろ続き!