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気づかんふりの夏
ある夏、俺は男に恋した その事実に気づくまで、だいぶ時間かかったけど… セミの声が、やけにうるさかった 校舎の窓から吹き込む風は、熱気をまじえてまとわりつく 白いシャツが背中に張りついて、 球拾いしてるだけで息が上がった グラウンドの向こうでは、琉真が笑ってた サッカー部の練習中、 額に汗を光らせながら、何か言って仲間に肩を叩かれてる その笑い声が聞こえるたびに、 胸の奥が、少しだけ痛くなった なんでやろな、あの時の俺はその理由を知らんかった ただ、 夕暮れに染まる空と、琉真の後ろ姿だけが、 ずっと目に焼きついて離れへんかった
――まだ恋って言葉も知らん純が、琉真達と出会う “始まりの日”
4月 新しいクラスのざわめきの中、 俺はひとり、教室の後ろの席で寝たふりをしてた 俺有馬純 野球部に入るつもりやけど、まだ部活見学にも行ってへん なんていうか――知らん人と話すの、ちょっと苦手やねん
七瀬琉真(ななせりゅうま)
顔を上げると、明るい声と一緒に立ってたのは七瀬琉真 ちょっと整った顔に、柔らかい笑い方 その瞬間、教室のざわめきが遠のいた気がした
有馬純(ありまじゅん)
そう返した声が、妙に上ずってた 後ろの方では女子が笑いながら自己紹介してる その中に、白羽汐莉の名前が聞こえた まだ知らんこのクラスが、 これから俺の“気づかんふりの夏”になるなんて、 その時の俺は、思いもしとらんかった
琉真とちゃんと話すようになったのは、 たぶんあの日からやと思う 昼休み、クラスの男子らがサッカーボール持ってきて、 廊下で蹴り始めた
有馬純(ありまじゅん)
って思いながら見てたのに、 気づいたら俺も混ざってた
七瀬琉真(ななせりゅうま)
有馬純(ありまじゅん)
言ってるそばから、ボールがドアの方に転がっていって――
白羽汐莉(しらはねゆうり)
ガラッ タイミング悪く、教室のドアが開いた そこにいたのは、担任の石井先生 完全にアウト
3人
白羽汐莉(しらはねゆうり)
石井先生
白羽汐莉(しらはねゆうり)
七瀬琉真(ななせりゅうま)
白羽汐莉(しらはねゆうり)
琉真が吹き出して、 俺も釣られて笑った 石井先生に
石井先生
って怒鳴られて、 さらに笑いこらえるのがしんどかった
職員室の前で3人並んで立たされながら 汐莉がため息混じりに言う
白羽汐莉(しらはねゆうり)
琉真がまた笑って、気づいたら俺も笑ってた その日からや 俺ら3人は、ずっと一緒におるようになった