ヒット作『恋空』『王様ゲーム』を手掛けた名編集者が語る、これからのコンテンツ

2024.02.20

ケータイ小説で最大のヒット作品といえば『恋空』。そして『王様ゲーム』がヒット作として知られていますが、それらのコミカライズや書籍化を手掛けたのが双葉社の宮澤震さん。ウェブ小説からあらたなコンテンツを作り出すことに長けている編集者でもあります。ケータイ小説が流行ったガラケー全盛期はコミカライズの事例も数少なかった時代ですが、宮澤さんはウェブ上の作品に対してどんな印象をもっていたのでしょうか? そして、ウェブコンテンツからヒット作品を作り出すまでの秘訣について、テラーノベル代表取締役の蜂谷宣人が掘り下げていきます。

ケータイ小説で大ヒットを記録した『恋空』

蜂谷:宮澤さんといえばケータイ小説発である『恋空』のコミカライズを手掛けたり、2010年代には小説とコミックスの『王様ゲーム』を担当されています。どうやってこれらの作品をヒットさせたのでしょうか?

宮澤:2002年に双葉社へ入社し、ムック本から書籍までありとあらゆるジャンルの作品を手掛けてきました。韓流ブームの時には韓国ドラマのムック本を作ったり…さまざまな経験をし、書籍やマンガなどたくさんの作品に取り組むなかに、原作小説もありました。一定の支持を得ている原作小説をマンガ化すればヒットすると感じていましたので、作家さんを探し、声をかけていました。
そして、ウェブ小説のプラットフォームである「魔法のiランド」でも人気作であった『恋空』のコミカライズを双葉社から出版したのです。

『王様ゲーム』もそうですね。サスペンス系はイケると思っていましたから、タイトルとテーマだけで判断しました。当時は映画『バトル・ロワイアル』を筆頭として、デスゲーム系のジャンルは確立されていて、この領域は掘れば……というのは分かっていましたから。書店では山田悠介さんの『リアル鬼ごっこ』の横に置いてもらう戦略で売っていきました。『王様ゲーム』はすでに「モバゲータウン」内で熱烈な人気を誇っていたので、中高生にこれだけウケているならば、小説版とコミカライズ版を出せばヒットする確率は高まると思っていました。

すでにSNSや投稿サイトでヒットしているモノを、改めて装丁など体裁を整えて書籍にしたり、マンガ家を付けてコミック版を作ることは有効だと思います。何を主軸にしているかという“テーマ”と“タイトル”が良ければ売れる、と思っています。

蜂谷:一方で、当時のケータイ小説には「文章や表現が稚拙。読みものとは呼べない」という批判もあったりしました。そのあたりはコミカライズするにあたって不安要素ではなかったのでしょうか?

宮澤:一切気にしなかったですね。きれいな文章を書ける方はたくさんいますが、こういった作品を扱うのは“テーマを買う”ことだと思っているので、文章の上手さは求めていません。一点突破できる、唯一無二の尖ったテーマが必要だと思っています。
そして当然、流行り廃りはありますから、今きているジャンルを追ってコミカライズをするのがよいと思っています。
すでに多くのひとがウェブ小説を読んで「これはいい。面白い」と言っているものをマンガ化したら、もっと多くのひとの目に留まりますから、ヒットする可能性は高まりますよね。
私自身はその可能性が高い作品を追いかけていくことが、ヒットを作り出すポイントではないかと思います。普段から色々とネットサーフィンをしたり、小説投稿サイトなどを見たりしては面白い作品がないかを探しています。

ヒットのジャンルは偏るもの、そのなかで一点突破できるテーマを

蜂谷:ウェブ小説の状況を見ていると、異世界系が一大ジャンルとしてありつつ、ホラーやサスペンスの要素であるデスゲーム系、異世界転生系、悪役令嬢系とさまざまなジャンルが出てきては、ヒット作が出るとそこに偏る傾向がありますよね。その辺りを宮澤さんはどう見ているのでしょうか?

宮澤:ジャンルが固まるのはある程度、仕方ありませんよね。ただ、流行り廃りに関しては私も何とも言い切れない部分があります。以前『のぼうの城』を読んで、戦国小説系が面白いと思い、このジャンルの作品を営業や書店と組んで仕掛けたことがあったのですが、なかなかうまくいかなかったというのが実態です。そんな経験もありますから、ブームは出版社や書店側の押し付けではなく、読者がつくりだすものだと思っています。『王様ゲーム』のヒットを得て、より強く感じますね。

とはいえ、書籍・電子書籍と出てきてヒット作の傾向なども変わってきていますね。書籍で売れていれば電子書籍でも売れるというのが通説でしたが、実は女性向けの作品だと書籍と電子書籍で売れ筋が異なります。また、電子書籍だけで非常に伸びる場合もある。この辺りは、作品によって出す場所を変えていくことが必要かもしれません。

昨今では、私は編集者としての仕事以外に海外事業部も兼任して、ライツの管理などもしています。日本のマンガや小説コンテンツは世界でも十分通用するもの。いかに世界中の人たちに届けていくか。それは双葉社1社だけではできないので、他社さんともコラボレーションしないといけないと思っています。

とはいえ良質なヒット作品は、読者にとってわかりやすいテーマで、話を読み進めていく先で「想像を超えていく」こと。これが一番ではないかと思います。作品を書くひとは増えていますから、自身の感性を信じて、自分が面白いと思うモノを書ききることが必要ではないでしょうか。

ウェブトゥーンの可能性とは?

蜂谷:一方で、宮澤さんはウェブトゥーン制作などにも挑戦されていますよね。このあたりに可能性を感じていらっしゃるのでしょうか?

宮澤:双葉社としてはDEF STUDIOS(デフ スタジオ)で、ウェブトゥーン制作に取り組んでいます。マンガ制作とはシステムが全然違うので学ぶことが多いですね。
双葉社の編集力のシナジーで、幅広い客層のニーズに寄り添うエンターテインメントを提供していきたいと考えています。

蜂谷:なるほど。双葉社の編集力でヒットウェブトゥーンの新しいカタチが出てくることを楽しみにしています。

本日は貴重なお話ありがとうございました。

宮澤震(みやざわ・しん)
株式会社双葉社 編集局局次長兼ライツ事業局局次長。Yoshi著『翼の折れた天使たち』をきっかけにケータイ小説に参入し、「魔法のiらんど」「モバゲータウン」「エブリスタ」など、様々な小説投稿サイトのケータイ小説の書籍化・コミカライズに携わる。2014年に「モンスター文庫」を創刊し、「小説家になろう」の作品に関わる。

蜂谷宣人(はちや・のぶと)
テラーノベル代表取締役CEO。大学院卒業後、ディー・エヌ・エーに入社し、エンジニアとしてモバゲーの開発を行った後、グループ会社にてメディアのサービス開発や新規事業立ち上げに従事。その後、ゲーム配信プラットフォームのミラティブを経て、DMMグループに参画。日本のエンタメコンテンツ産業のポテンシャルを確信し、テラーノベルをMBO。

テラーノベル:https://teller.jp/