流石、御影コーポレーションの 持ち家といったところか
個室には手を付けないとはいえ、一通りの掃除が終わるのには相当に時間も手間も掛かった
どの部屋もどの小物も、成金趣味ではないのに品もセンスも良い。そんなことを思いながら掃除を進めて早二時間。大人数のパーティでもするのかと疑いたくなるような広さのダイニングの掃除を終えて、やっと小さく息をついた
鈴音
鈴音
壁に掛けられた時計を見ても、今日の勤務時間である十八時はまだ一時間も先のことだった
鈴音
慣れない華美なスカートやストラップシューズに悪戦苦闘しながら階段を上り、玲王さんの部屋の扉を叩いた
鈴音
玲王
玲王
鈴音
扉を開ける。玲王さんは窓際の勉強机に向かっていて、椅子ごと私の方を振り返る。机の上にはテキストやらノートやらが広がっていた
鈴音
玲王
玲王
玲王
鈴音
鈴音
玲王
玲王
鈴音
玲王さんはさっと立ち上がると、私の横を抜けて廊下に出た。吹き抜けになった回廊から一階を見下して、「へえ」と感心するような面白がるような声を上げる
玲王
彼は目元を細めて悪戯に笑った
以前のバイト経験が役に立ったな、と思う
約半年前のことだ。母が体調を崩して、月毎で定められている借金の返済金額を用意できない可能性があった。そこで私は年齢を偽って、深夜の清掃バイトの仕事に就いていた。私の平常時のバイト代だけではとても賄えなかったのだ
未成年の深夜業は当然に禁止されている。バレたら罰則もあり、はっきり言えば違法行為だった
そんなことを彼に話す理由もなく、私は努めて丁寧に頭を下げた
鈴音
腰壁の手すりに凭れながら、玲王さんは考えるように首を傾げた
玲王
玲王
何気なくそう呟いた後、玲王さんはハッとしたように私を見た
玲王
鈴音
玲王さんは明るく笑っているが、よく素性を知らない相手に、自分の服を触られるのが嫌だと思っているいうのは察して余りある
鈴音
鈴音
玲王
玲王さんは言葉を戸惑って、何とか私をフォローする言葉を探しているようだった
しかし、私が言ったことは強がりでもいじけているわけでもなく、全くの本音だった。私自身は仕事内容なんてどうでもいい。信頼してもらいたいとも思わない
ただ時間分の賃金が支払われればいいのだ。御影玲王という御曹司自体に興味もなければ、信頼関係を築きたいなどとは露ほども考えなかった
玲王
玲王
玲王さんは飽くまで笑って、私を気遣うように言った。 きっと根が優しい人なのだと思う
鈴音
鈴音
私は深々と会釈をし、元の服が置かれた部屋に歩き出して__もう一度、玲王さんを振り返った
鈴音
鈴音
いきなり突飛なことを言い出した私に、玲王さんは意外そうに目を瞬かせる。無理もない
最初、門の前で顔を合わせた時、玲王さんは私が同世代だと聞くなり微かに嫌な顔をした
多分、過去にも『御影コーポレーションの御曹司とお近づきになれるかも!』と浅はかな思いで家事代行サービスに登録し、実際に玲王さんに接近してきたメイドがいたのだろう。そして、それはきっと玲王さんと歳の近い若い女性だった。だから私を警戒したのだ
鈴音
鈴音
私はもう一度、頭を下げる。 今度こそ踵を返して、着替えに行こうと足早に部屋に向かった
玲王
鈴音
鈴音
玲王さんはどこか自信なさげに、振り返った私に問い掛けた
玲王
玲王
玲王
玲王
指名。そういうシステムがあるとは聞いていた。家事やその他のサービスの質が高ければ高いほど「是非この人に」と指名されることがあるのだと
その分、指名料として給与に上乗せされる。健全なキャバクラや風俗みたいな仕組みだなぁと、聞いた当初は思ったものだ
別に断る理由がなかった。私の了承を得る必要なんてないのにな、と思いながら、端的に返す
鈴音
鈴音
鈴音
玲王
玲王
玲王
そう言って笑う玲王さんの表情は取り繕っている風でもなく、どこか安心感が滲んでいるのが不思議だった
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