本当はこうなりたかったんじゃない。 もっと望ましい関係になりたかった。
手を伸ばせばふっと消えてしまいそうなあなたも、あなたの言葉に左右されてしまう自分も本当は愛したかった。 愛せるようになりたかったんだ。この穴をあなたに塞いでほしかった、本当はずっと。
しろせんせー
ニキ
眉間に皺を寄せて、苦しそうに咳き込むあなたさえも愛おしく可愛くてたまらないのは俺が異常なのだろうか。 いや、本当は最初から二人とも狂っていたんだろうな。互いに苦しませて首を締め合っていたんだろう。
しろせんせー
最近のあなたは嘘をつくようになった。喉が痛いなんて、全くの嘘。ねぇ、俺わかってるよ?見抜いてるよ? 俺以外にあなたのあなたを埋めてくれる人が…、いや、俺はそもそも埋められていなかったのか。 だから俺以外を選んだのか。夜のあなたは、その人の前ではどんな顔をするんだろうね。
ニキ
ニキ
しろせんせー
冗談まじりに言った言葉が、まさか自分を傷つけるなんて思わなくて。 あなた、本当に嘘で自分を取り繕うのが上手だね。昔からその性格は変わらない。
じゃあ、俺だけは前に進めないままあなたに置いてかれるのかな? 進んでいるつもりで進んでいなかった、何も気づけていなかった。自分だけ一歩前に進めている気がして優越感に浸っているだけだった。 俺はあなたのこと何とも思ってないから気にしないでセフレ関係を続けようって、余裕ぶってイキってるだけだった。
ニキ
ニキ
ニキ
一人、パソコン画面に向かう。昔はあなたも一緒に編集してくれていたり、応援してくれていたよね。 今はもうこの関係に慣れてしまってそんなことがあるはずがないけど。あなたのお気に入りのヘアバンド、勝手に使ってごめん。 俺だけのあなたって思いたかった、思ってみたかった。
画面に照らされるニキの顔に、一粒雫が零れ落ちた。この雫は、彼の我慢と後悔を表していたと思う。 誰よりも濁って、汚いものであった。 まるで、彼の記憶の中のように。
ニキ
掠れた声で囁いても、泣いても喚いても昔の彼が帰ってくることはない。その事実を受け止めることなんて、出来るはずもなかった。 長い前髪と溢れる涙が彼の視界を邪魔して編集なんてできるはずもない。
ニキ
最初からこんな関係にならなければ
ニキ
しろせんせー
寝ているあなたの顔、何回も見たよ。俺といる時よりずっと幸せそうな寝顔が憎たらしくて大好きだった。 愛してやまないあなたの、そんな醜くて見にくくて仕方ない俺とは真逆の輝く笑顔も、何もかも本当は妬みへの対象でしかなかったこと、あなたは気づけていたのかな?気づかれないようにしていたからきっと気づいていないよね。
ニキ
涙すら出なかった。彼はニキがどれだけ頑張っても振り向かないことも、他の人に目を向けてしまうこともわかってしまったから。 わかりたくもない、知りたくもないことを自ら知ろうとしてしまったから。
この真っ暗で光も希望もない部屋に置いていかれたのは、彼の手に握られた鍵と彼を思う気持ち。 それとたった一人の愛した人間であった。
ニキ
ニキ
そうだ、行くと決めてしまったんだ。彼のことは忘れると。 例え視聴者に何と思われようとも、自分の心を選ぶと決めてしまったから…
彼の家の前から足が動かない。動かそうとしても接着剤でくっつけられたみたいに足が重くて。それと比例して俺が彼を思う気持ちも重かったんだろうな。 だからあなたは俺からどうにかして逃げようとしたんだ。結果、俺から逃げることになるとは思ってもみなかった。
ニキ
気が変わる前に、世が明ける前に早く。 彼から逃してくれ。
ニキ
なんて願いが届くことはなかった。
コメント
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今の私になんか刺さる作品だ、本当に大好き
Pさんが書く作品大好き。