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雨が降っていた。 弱々しく、しとしとと。 ただ、止まない微風によって、その雫はパラパラとした細かい染みを、衣服につけていた。 ズボンの裾がはためく。 自分でも悩むくらい、女のように細い足が浮き出ていた。 五月に入っても尚、微弱な寒さは去らなかった。 道路脇のアジサイ。 新緑の碧い葉の上を、透明な液体が絶え間なく流れている。
お世辞にもデートには向かないこの日に、ゆあんは呼び出された。 いや、誘われたという方が正しいのだろう。 何せ彼女はそういう女性だ。 赤い看板にはスープを呑む女性と猫、そして、この喫茶店のメニューがかかれている。 店の名前は、「鎌倉 ゆりあぺむぺる」。 ひび割れが入ったような白い螺旋階段には、クリスマスのイルミネーションで使われるようなランプが巻き付けられている。 深緑の西洋風の窓と、真紅のペンキで塗られたトタンの壁が、レトロな雰囲気を醸し出している。
扉を開くと、カランという軽いベルの音が響いた。 それに気づいた店員の女性が、入口近くまでやってくる。 裾の膨らんだ黒い服に、肩まで伸びた髪をハーフアップにしている。 アイラインがくっきり引かれた彼女の顔はゴージャスだが可愛かった。 平日だからか、客は少ない。 直ぐに窓際の席へ案内された。 半透明の薄く白いカーテンが掛けられ、窓枠には豪奢な刺繍が施されたランプシェードと花瓶が置かれている。 このアール・ヌーヴォー様式の装飾性が重視された内見は、如何にも女の子が好みそうだ。
y a .
夕美
長澤夕美は鎌倉女学院に通う高校二年生だ。 芯があるが、穏やかで優しい瞳に、鼻筋のすっと通った綺麗な顔。 ナチュラルで薄いメイクで飾りつける彼女は雰囲気美人なのだろうが、街中で声を掛けられる様子は頻繁に見ている。 だからこそ、こんな美人がゆあんを選んだことに、驚かない訳にはいかなかった。
夕美
y a .
夕美
子供を諭すような口調で言われ、仕方なくタオルを受け取る。 夕美がいつも纏っている香りが微かにすることに、少しどきどきした。
夕美
夕美に言われたこととは反対に、お腹は空いていなかった。 最近はそういうことが多い。 金欠だからとでも言って済ませておこうか。
夕美
そう言われると、尚更食べられなかった。 彼女は自分の努力を、健気に人の為に使おうとする。 本当に嫌味もなく、ただの優しさで。
y a .
ペラペラとした軽い嘘が、いつの間にか飛び出していた。 口から出る言葉とは反対に、心臓が早鐘を打っている。
夕美
納得がいかないような顔をしている。 夕美は気づいているだろうか。 しかし、その一瞬後には、慣れた動作でナポリタンとプリンを頼んでいた。
夕美
吉柳夫婦は俺の肉親だ。 と言っても真紀さんとは血の繋がりがある訳ではない。 母親が家を出てから、ゆあんは母の弟である利幸さんの、吉柳夫婦の元に預けられた。 彼らは子供がいなかったからか、ゆあんに愛情を込めて接してくれている。
y a .
夕美
彼女は嬉しそうに目を細める。 夕美自身も、真紀さんと利幸さんが大好きなのだ。
y a .
この喫茶店は鎌倉駅から近いし、特に不都合な事はないが、夕美はそれでも雨の日は誘わない。
夕美
y a .
夕美
そこまで話したところで、彼女が注文したナポリタンとプリンが届けられる。
夕美
夕美はこういう少し高めの喫茶店に来たからといって、写真を撮る事は無い。 写真に撮って形に残すより、味わって記憶に残した方が良いというのだから、本当に驚く。
y a .
夕美
なおきり。 その名前に、聞き覚えがあった。 どこかで聞いた事があるのに、思い出せない。 出かかった言葉が詰まって出てこない、むず痒い感覚。
夕美
y a .
きっと、夕美に話したところで分からない。 なら、話す必要も無い。 花瓶に生けられた、薄い浅葱色のアジサイの花弁が一枚、床に落ちた。
ウツキ
ウツキ
ウツキ
ウツキ
ウツキ
ウツキ
ウツキ
以下雑談
ウツキ
ウツキ
ウツキ
ウツキ
ウツキ