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夏休みだと言うのに 今日は補習で朝から学校に来た
上村くんたちは 部活があるから補習は取ってなくて 今日も朝から部活らしい
まぁ、先輩たちが 補習を取っていたとしても 階が違うから合わないんだけど
運動部のランニングの掛け声が あちこちから聞こえてくる気がする
補習は今日は数学の日
夏休みの課題を進めるらしく 数学だけ早く終わりそうな予感がする
補習を終えて教室を出れば "もう終わり？"と声がした
顔を上げると 哲汰先輩と草川先輩がいた
関哲汰
草川直弥
対象的なふたりのテンション
いつも通りで 久しぶりって程期間も空いてないけど いろんな意味で安心する
草川直弥
私の何かを察したのか 草川先輩が言った
関哲汰
廊下を歩きながらそんな話をしていたら あっという間に生徒玄関に着いた
関哲汰
草川直弥
先輩ふたりの背中を追いかける
身長も小さくて歩くスピードも遅い私
どれだけ追いつこうとしても なかなかその距離は縮まらなくて なんだか少し、どうでも良くなった
"追いつくこと"を放棄して 立ち止まって空を見上げた
関哲汰
立ち止まって空を見上げる私の名前を 哲汰先輩が呼んだ
関哲汰
私が駆け寄れば そう、自信なさげに呟いた
いなくなんない
いなくなんないよ
いなくなるわけないじゃん
私、哲汰先輩のこと 好きだもん、
草川直弥
関哲汰
関哲汰
その問いかけに空を指差せば 私の指を辿って ふたりも空を見上げた
関哲汰
吉岡彩葉
草川直弥
吉岡彩葉
学校ではずっと俯いているから 下校途中、こうして空を見上げると 外の空気がやっと 肺に入ってくる気がして 生きてるって実感できるんだ
私生きてる
息してる
呼吸してる
夏の暑すぎる空気が 肺に入ってむわっとする
だから冬の冷たい空気のほうが 実は気持ち良かったりする
"呼吸"という 生きている生き物全てが行う 簡単な行為ですら 学校では思うように出来ない
どう息をしているのか いつも、すぐに忘れてしまう
そのせいか あくびが止まらない
酸素がうまく回ってないらしい
きっと普通に呼吸ができるのは 自分の部屋とお風呂とひとりの時ぐらい
学校では出来ないし たぶん、社会に出てもうまくできない
その場を離れてやっと ほっとひと息つけるような気がする
関哲汰
急に思い出したのか 哲汰先輩が声をあげた
"いつでも大丈夫です"
スマホのメモ機能に打ち込んで その画面を哲汰先輩に見せれば "俺次第ってことね？"と笑った
関哲汰
関哲汰
吉岡彩葉
草川直弥
なに？嫉妬？ なおくんかわいー！
なんて、哲汰先輩が 草川先輩にぎゅうぎゅう抱きついている
これは、どうすれば…
とりあえず楽しそうな様子を 写真に収めれば シャッター音で気付いた草川先輩が 哲汰先輩を払い除けた
草川直弥
黒目がちな大きな瞳が 私を見据えている
なんとも言えない感情
一応こくこく頷いた
けど、消すつもりはない
口では抵抗しつつ 哲汰先輩のことを受け入れているから なんだかんだ楽しそう
夏休み
補習と親戚の集まりと課題
何も楽しいことなんて 絶対に起こらないって思ってたけど…
今現時点で、もう既に楽しいのは やっぱりみんなのおかげかな
みんなとの予定も ぎっしり入っていて これからが楽しみだ
私は人付き合いが苦手
中学生のとき、幼馴染みに "先生に言われて仲良くしてた"って 言われたから
それを向き合って直接言われたとき "へぇ、そうなんだ？"って 笑って誤魔化すことしかできなかった
ごめんね？無理に付き合わせて 今までありがとう こんな私に付き合ってくれて
とでも言えば良かったのかな
なにが正解なのか 私にはわからない
その時もわからなかったけど 今でもわからない
笑って誤魔化しながらも 苦しくて泣きそうなあの感情
誰か同じ経験したことある？
幼馴染み兼親友でいいんじゃない？ なんて笑い合ってたのに
急に "あなたは友だちではありません"って 突き放される
あの気持ち
なのに、6月あたり 友だちが休んでひとりお弁当を 食べるのが嫌だからって 誘ってきた
嬉しかった
久しぶりに話せることが
でもひとりでお弁当を食べるのって そんなに恥ずかしいの？
私、しばらくひとりで食べてたよ
やっぱり 人付き合いって難しい
途中、彩葉が足を止めた
哲汰は気付いていないのか 話しながら先に進んでしまう
草川直弥
呼び止めれば振り返った哲汰が 彩葉ー！ってまた彩葉を呼んだ
関哲汰
吉岡彩葉
話し始めるとどうしても足が止まる
たぶん彩葉は 話しながら歩けない
今まで気が付かなかった
歩くペースもゆっくり
だから置いていってしまうんだ
彩葉を送った帰り 哲汰とふたりになった
草川直弥
何気なく言ってみれば
関哲汰
遠巻きに "知っている"と肯定された
俺が思っている以上に みんな、彩葉と仲良くなろうと してたんだ
仲良くなりたくないわけじゃない
ただ少し、接し方が難しいだけ
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