苦い吸血鬼の君。

⚠︎ 🦈🌸

地雷さんは🔙をお願いします🙇‍♀️

start

目の前には血を流しながら倒れている "吸血鬼"。

ﾋﾟｯ…

連絡機の先から「了解」という低い声が届き、通話を切った。

突然、後ろから服を引っ張られた。

振り解き、距離を取って後ろを振り返った。

目に映ったのはビクビクと怯えながら今にも泣きそうな顔をした子供。

見た目は中学生ぐらい。

見たところ、吸血鬼の子供ではなさそうだ。

俺は小走りで子供に近づいた。

しゃがみ気味に子供と目線を合わせて聞いてみた。

子供は綺麗な水色の瞳をしている。

親を探して、見つからなかったら一旦本部に連れて行って保護するか。

手を広げると小さい体が胸に飛び込んできた。

こんな森に1人で居たんだから、さぞ怖かっただろう。

ｶﾞﾘｯ

立ち上がろうとすると、首筋に酷い痛みが走った。

痛みの原因はすぐに分かった。

吸血鬼特有の鋭い歯が肉に食い込んできている。

そして激しく血を吸う音。

その音の先にはこさめが居る。

こさめを殴ろうとすると呆気なくその手は掴まれた。

それと同時に更に血を強く吸ってきた。

頭がふわふわして意識が朦朧とする。

そのせいで痛みがちょっとした快感に変わってくる。

教えた覚えのない自分の名前を呼ばれた。

通話した時に聞かれたのだろうか。

血を吸われて弱くなった力で抵抗をするが、ビクともしない。

がぢゅｯ…

こさめは先ほど吸血によって付いた傷跡を抉るようにまた噛んできた。

こさめの血を飲み込む音が耳元で聞こえてくる。

血を吸われすぎて力が入らなくなり、後ろに倒れてしまった。

だけど、そのおかげでこさめの歯が皮膚から抜けた。

血が出ている首筋を抑えて後退りをした。

手で抑えても血が流れる勢いは止まりそうにない。

視界はぐるぐる回っていて、上手く酸素を取り込めない。

こさめはその姿を笑いながら見ている。

まるで俺の答えが分かりきっているような顔。

視界が暗くなり出した。

助けてもらわないと本当に死んでしまう。

こさめは嬉しそうに近づいて来て、首筋に顔を近づけた。

突然舌で傷口を舐められた。

ぴちゃｯ…ちゅｯ…

すこし染みて痛いはずなのに何故か感じてしまう。

こさめが口を離すと先ほどの痛みが一切無くなった。

傷口があったところをそっと触ってみると、何事もなかったかのように元通りになっていた。

こさめをナイフで刺そうとしたが、避けられてしまった。

笑顔が一瞬にして冷たい表情になり、声はさっきの声が嘘かと思うぐらい低い。

こさめは俺の首を掴んできた。

吸血鬼の鋭い爪が皮膚に食い込む。

笑顔に戻ったこさめは首をパッと離した。

こさめはなんだかんだ甘い。

ごめんと一言謝っただけで許すのだから。

ニヤリと小悪魔のような顔をするこさめ。

こさめは自分の指を噛んで血を流した。

満面の笑みで指を口まで近づけられる。

嫌な予感を感じながら尋ねてみる。

最悪な予想的中。

吸血鬼の血を人間が飲むと吸血鬼になってしまう。

俺は吸血鬼討伐隊で勿論、吸血鬼の血を飲むなんて絶対にあってはならない。

一向に飲む気配のない俺にこさめは呆れていた。

こさめの血が出ていないほうの手の爪が喉に当たる。

今飲まないと、このまま喉を掻っ切られてしまう。

俺が動けずに居ると、ついにこさめは俺の口に無理やり指を捩じ込んできた。

口の中に広がる鉄の苦い味。

嘘とは思えないほどの冷たい目。

どうすればいいか分からなくて、頭は真っ白だった。

ﾄﾞｯ…ﾄﾞｯ… 鼓動が今までに無いほど激しく打っている。

どうしよう…どうしよう…

ｺﾞｸｯ

飲んでしまった。吸血鬼の血を。

こさめは心底嬉しそうに此方を見ている。

吐き出さなきゃ。

まだ間に合う。

喉に指を突っ込もうとする俺の手をこさめが掴んだ。

俺より小さい体からは想像できないほど強い力で。

口内にはまだ、苦い味が広がっている。