1945年8月15日。
ラジオから聞こえる、 天皇陛下様のお声。
陸
内心少し期待をしながら、 『私』はラジオの前に 直立していた。
そんな期待の中、 聞こえてきたおことばは。
『朕ハ帝国政府ヲシテ 米英支蘇四国ニ対シ 其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨 通告セシメタリ』━━━…
━━━…『私は、アメリカ・ イギリス・中国・ソ連に 対しポツダム宣言を 受け入れることを皆に 通達する』
…私の期待を、 裏切るものだった。
陸
陸
陸
神の国
陸
陸
私の体は、考える間もなく 走り出していた。
陸
無礼を承知して、 大声で叫んだ。
祖国様
そうおっしゃりながら 姿を見せるのは、何も 変わらない祖国様のお姿。
しかし、布で隠されている ため祖国様のお顔は見えず、 ただ凛とした芯のある 声のみを認識するのが 私には精いっぱいだった。
でも、だからこそ 感じられる…このお方の 身分の高さを。
私は祖国様の前に 跪き、顔を上げて 訴えた。
陸
祖国様
祖国様は、しばらくの 間首を少々傾けられて 何かを考えていらっしゃる 様子だった。
口元に手を添え、 祖国様が声を発された。
祖国様
陸
祖国様
陸
そう再度問うと、 祖国様はお立ちに なられた。
祖国様
陸
名を呼ばれ、余計に 背筋が伸びる。
祖国様
陸
祖国様
陸
布の奥で、祖国様が 笑顔を浮かべている様な 気がした。
祖国様
祖国様
陸
私は、祖国様の お言葉に悔し涙を 浮かべていた。
『もっと強ければ』
『もっと敵空母を 墜とせていれば』
…そんな後悔ばかりが、 私の胸の中をぐるぐると 巡る。
祖国様
祖国様の声が、優しく 心に沁みる。
私はただ、押し黙るしか 出来なかった。
陸
祖国様
陸
私は顔を上げた。
祖国様
その言葉で、一人の 和装の人物が後ろから 姿を現した。
陸
祖国様
日本国
祖国様の声を継ぎ、 その人物が声を発する。
まだ生まれて間も ないのか、話し方が かなりたどたどしい。
ぴこぴこと揺れる 耳が、この場面で緊張 していることを一番に 表していた。
陸
日本国
陸
日本国
陸
まるで召使いかの様に ずっと微笑み続ける 日本に、
少しばかり 恐怖を覚えた。
本当に、この子に 次の時代の日本国を 任せられるのかと。
陸
私は一人でそう 結論付けた。
陸
祖国様
突然、祖国様が 私に謝られた。
陸
祖国様
祖国様が、話しづらそうに ぽつぽつと語られた。
戦争犯罪人として、 私は一度米軍にとらえられ 裁判にかけられるのだと。
そして━━━…
特例でも設けられない 限り、私はほぼ確実に A級戦犯として絞首刑に 処されるのだと。
祖国様
陸
その言葉を聞いて、 私は心なしか 笑みを浮かべた。
陸
祖国様
祖国様が、はじかれた様に 肩を震わせた。
祖国様
『貴方は、私の事を 恨まないのですか?』
祖国様が私に問うた。
私は、微笑んだ。
陸
陸
そのあとは、何度も何度も 祖国様に謝られた。
『すみません』と、 何度も繰り返して 言われた。
でも、私はただ 笑って 『大丈夫ですよ』と 言い続けた。
なぜなら━━━…
陸
それを思えば、死ぬことは 何も怖くなどない。
陸
私は、
…………
『俺』は、ソッと 目を閉じた。
そこからの事は、 実を言うとあまり 覚えていない。
覚えていることと いえば、アメリカ兵に 連れられ船に乗り、 アメリカ本土へと 渡ったこと。
そして、そのまま 目隠しをされて 何分か歩いてから 地下牢へと 放り込まれたこと。
その地下牢は、 随分暗くて寂しい 場所だったのを 覚えている。
それから、数か月後。
陸
アメリカ
陸
アメリカ
アメリカが溜息を 吐いた。
アメリカ
その言葉に、ピンと 耳が立った。
でも、俺は首を振った。
アメリカ
肯定。
アメリカ
アメリカ
俺は顔をあげないまま 耳だけを立てた。
アメリカ
この時、アメリカが 一体何を言ったのかを 俺は覚えていない。
まぁ覚えていないと いうことなら、結構 どうでもいい話 だったんだろう。
その後、死刑判決が 国連より言い渡された。
でもまぁ、ほとんど わかり切っていた事だし あまり驚かなかった。
そして、死刑当日。
俺は執行室に行くため、 アメリカの隣で黙々と 歩いていた。
アメリカ
陸
アメリカ
陸
アメリカ
そんな、クララが 立ったみたいな 言い方をしなくても…
思わずため息を吐く。
陸
アメリカ
アメリカが真面目な 声色で聞いてきた。
陸
アメリカ
陸
ふと、俺は足が止まった。
アメリカも、それに合わせて 立ち止まった。
陸
アメリカ
陸
アメリカ
アメリカ
アメリカが怪訝そうな顔で 聞いてきた。
陸
俺が答えると、 アメリカは頭を抱えて
アメリカ
と言っていた。 意味は良くわからない。
陸
陸
そう言うと、アメリカは 少しの間考えたのちに 俺に銀紙で包まれた 四角い物体を渡した。
陸
アメリカ
陸
例えこれが毒であろうが なかろうがこれから 死ぬのだから別に 食べても問題はない。
そう判断して、俺は 銀紙を剥がして キャラメルを口に 放り込んだ。
陸
アメリカ
陸
アメリカ
なぜか、なぜか その瞬間だけ。
アメリカと俺は、 まるで友達の様に 話していた。
処刑場に着いた。
アメリカはガラスの 向こうへ、俺は縦に 切れ目の入った 鉄板の上に立つ。
陸
上から吊り下がっている 縄の輪っかを、首に かける。
今から死ぬのだと いうのに思ったよりも 心は穏やかだった。
アメリカ
陸
アメリカ
陸
そのあとは、色々と 死刑を行う上での 注意事項を聞かされた。
あとは死ぬだけなのに 説明とかいるのか…?と 思いながら、ぼーっと 聞いていた。
アメリカ
ようやくか。
俺は顔を上げる。
パッと、アメリカと 目が合った。
アメリカ
陸
俺はしばらく考えた。
弟たちに向けての 言葉にしようか、もしくは 後継の国である日本に 伝える事にしようか。
でも、言葉はすぐに 決まった。
陸
アメリカ
すぅ、と呼吸をする。
この空間は、やけに空気が 澄んでいる。
陸
ふと、自嘲の笑みが 零れる。
そして俺は、 アメリカに向けて 笑顔でこう言い放った。
陸
と。
最期は、痛くも 苦しくもなかった。
ただ、『体』という 器から解放された 感覚がした。
…空、海…………
陸
意識が暗転した。
にゃぽん
にゃぽんに名を呼ばれ、 意識が浮上した。
日帝
俺は、突っ伏していた ちゃぶ台から顔を上げた。
にゃぽん
日帝
俺の座っているところは 冷房の風が強く当たる 所だった。
そんなところで ちゃぶ台に突っ伏して 眠っていたら、それは 風邪を引いてしまうな…
日帝
にゃぽん
「何で泣いてるの?」
日帝
試しに手で目元を こすってみると、水滴が 付いた。
日帝
にゃぽん
日帝
…終戦の日の事を 辛い出来事だと 言うのなら、あの夢も きっとつらい夢だったのだろう。
俺は頷いた。
にゃぽん
その瞬間、視界が 暗くなった。
俺は、にゃぽんに 抱きしめられていた。
日帝
にゃぽんは俺の頭を 撫でていた。
にゃぽん
にゃぽん
にゃぽん
にゃぽん
ポタ、と俺の手の甲に 涙が落ちた。
にゃぽんが泣いていた。
俺は手で、にゃぽんの 目元を拭った。
日帝
にゃぽん
そう言って、 にゃぽんは泣きながら 笑っていた。
日本
そうっと、襖を 開けて中を見てみました。
そこには、二人して 泣いている場面が 広がっていました。
また、音もなくそうっと 襖を閉め、私は 無意識にため息が 零れました。
日本
甘味をあげたら許して くれるでしょうか?
…いえ、普段の 日帝さんとはまた違う ベクトルのお話です。
きっと、甘味を上げても 喜んでこそくれても きっと許してはくれない でしょう。
日本
私はカバンからスマフォを 取り出し、電話のアプリを 開いてとある人に発信 してみます。
プルル、とコール音が 響く間に、ダイニングへと 移動。麦茶を淹れ、 テーブルへと座りました。
丁度3コール目で 相手が出ました。
???
日本
そうして、私は 相手と会話を始めました。
お土産として買ってきた 金平糖を出して、日帝さんは 喜んでくれるだろうかと 思いながら。
番外編Fin
コメント
23件
ガチで泣きました。神作をありがとうございます。
なんというか、、、、最後の言葉が、、、日帝らしいな、、、
好きすぎて何回も見てしまったウーっฅ(๑•̀ω•́๑)ฅー