交換ウソ日記

キーンコーンカーンコーン

はぁ、本当にやだ...

授業が終わると、ショートボブの髪の毛を軽く 揺らしながらのあが近づいてきた

曖昧にそう答える

ラブレターをもらって困惑していた、 とは言えないよ〜

本当にわたしのものなのかわからないし

相手が露木くんだと知られたら、絶対 大騒ぎになる！

放送委員になった今年から、毎週水曜日はお昼の 放送を担当している

なるべく早くに放送を始めなきゃいけないので、 教室に戻れない私の荷物はのあが持ち 帰ってくれていた

今日も、お弁当箱だけを持って立ち上がる

ハッとして踵を返し、しわくちゃになった ラブレターをこっそりと抜き取ってブレザーの ポケットに突っ込んだ

私はかけ足で放送室に向かった

夏はとっくに終わり、秋に入った10月だけど、 今日はブレザーでは汗ばむほど暖かい

窓の先にある青い空を見てから、かけ足で 三階から一階に下りた

※放送室だと思ってください

文系コースの校舎一階にある職員室に鍵を取りに 行き、準備室を挟んで隣にある小さな部屋に入った

放送委員でない限り、この部屋が放送室であることを知っている生徒はあまり多くないだろう

私も去年までは知らなかった

いつものように機械を操作して、マイクの 近くにある赤いボタンを押す

毎度決まったこのセリフから始まり、あとは適当に音楽を流しながら約30分、この部屋で ひとりで過ごす

放送委員になったのは二年生になってから

毎週の放送担当は一年間やらされるからか、 体育祭などの放送担当に比べて簡単な 仕事だけど皆嫌がってなかなかきまらなかった

私もジャンケンで負けただけ

初めの頃はのあや"るな"、他の友達と一緒に お弁当を食べられず、狭い部屋の中で輪から 外されたからのように一人になることがとても 寂しくて不安だった

けれど、一学期を終える頃には、誰にも気を 使わず、自分のペースで好きなように過ごせる 時間が楽しみになっていた

放送室の前に、かけてほしい曲を募集している リクエストボックスがあるけれど、中に紙が入っていることは、年に一枚あるかないかだ

だから、仕事らしい仕事は何もない

バックミュージックに私の好きなヘビィロックを 流しながらお弁当を食べた後は、本を読んでいる

本当は"デスメタルを"かけたいけれど、一度 使用した時先生に、「もう少しお昼に合う音楽を」と注意されてしまい、控えている

でも、今日はいつも通りのんびりと 過ごすわけにはいかない

『好きだ　露木』という短い文を、何度も 脳内で繰り返している

そして、透かしてみたり、裏返したり

そんなことしたって、これ以上の情報は 何も記されていない

高校に入学してしばらくして、クラスの女の子が『理系コースにかっこいい人がいる！』と はしゃいでいた

それが、露木うりくんだった

こんな特徴を持っている彼を、私は一度 見ただけで覚えてしまった

一学期の期末テストでは、数学と化学では学年で たったひとり満点だったと、どこから情報を 仕入れてきたのか、るなが言っていた

そんな彼はもちろん、女の子にモテる

つい先週も隣のクラスの女の子が告白して フラれたと話題になった

何度かそんな噂を耳にするけど、彼女が できたというのは聞いたことがない

そんな彼が私を好きって･････どう考えてもおかしい

思わず呟いてしまう

いつ、何があって私を好きになったか ちっともわからない

自分で言うのもなんだけど、私は平々凡々を絵に描いたような存在だ

一目惚れされるような容姿ではないし、クラスで目立つような明るさも個性もない

成績もスポーツも至って普通

そんな私を、どうして彼は知っているのだろう

この手紙が露木くんからのものでなければ、 名前が書かれていなくてもわたし宛ての ものかもしれないと、信じることができだろう

そして、もっと純粋に喜ぶことが できたかもしれない

それに、

あれが、嬉しいはずのラブレターで 気を重くする原因のひとつだ

っとため息をつきながら頭を抱えた

こんなことを思う女の子は、校内で 私だけなのかもしれない

露木くんは、いつ見かけても男女問わず たくさんの友達に囲まれていて 楽しそうに笑っている

露木くんは、告白されても適当なことは言わず、 真っ直ぐに断るらしい

『好きじゃないからごめん』だとか、

『悪いけど無理』だとか

別の人が露木くんと同じ言葉を口にしても、 彼と同じ印象にはならない

彼だから許される、それどころか人を 惹きつける、そんな人だと思う

嘘偽りなく、躊躇なく、自分の意見を率直に言う

人の顔色をうかがうことなく、なんでも はっきりと口にできる人

それがどんな発言であれ、相手に 悪い印象を与えない

きっと、自分に自信があるからだ

優柔不断なわたしとは、真逆の人間だ

だからなんとなく、彼に苦手意識を もってしまっている

そんな相手からのラブレター、らしきもの

わたしは、頭が混乱してきてごん、と 机に頭をのせてうなだれた