「大瀬さん!なんで捺印してくれないんですか!!!」「だから…クソ吉だからって言ってるでしょ!!」
大瀬と依央利はいつものように喧嘩をしていた。しかし、普段の喧嘩と比べ、お互いの怒りが強いのが傍から見ても伝わってくる。
「うぅ……ひぅ……ひっく……」
「え!?いおくんで泣いて…」
「泣いてないです!…ひっ…無我の奴隷なんで!!」
強がって泣いていないと言うが、目からは涙が零れ、床を濡らした。
大瀬は依央利のことを愛していた。故に、依央利の涙は自分も辛くなり、見ていられなかった。
しかし、奴隷契約にも捺印はしたくなかった。大好きな恋人を奴隷にしてこき使うなんて絶対にしたくなかった。
「もういいです…大瀬さんに僕は必要ないんですね。」
「え!?なんでそうなるの!?」
「付き合えたからって浮かれてました。迷惑でしたね。」
「そんな…..そりゃ…捺印捺印言ってくるのは嫌だったけど…そこも含めて、僕はいおくんが大好きだから…」
「やめてください!!!!!!!」
大瀬が必死になって依央利を説得しているとハウス内に響く程大きな声で大瀬の声掛けを静止した。
「……大瀬さんは優しいから……僕と付き合ってくれてたんでしょ」
「そんなことなッ」
「もういいよ!!!……………別れよう…………」
「え!?ちょっと!?いおくん!!!!???」
依央利がぶっきらぼうに別れを告げるとどこかに走り去ってしまった。
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「どうしたんですか!?依央利さんの声が聞こえたんですけど…」
「理解さん…」
理解がリビングに来ると同時に他の人達もリビングに集まってきた。
皆に事情を聞かれたので大瀬は全てを説明した。
「いつもと同じような喧嘩なのに、今日は2人とも気持ちが高ぶってしまって…すみません…今日中には死にます…」
「死なないで大瀬君!!!」
「……依央利さんは恋人として、大瀬さんの役に立ちたかったのかもしれません。勿論、大瀬さんの依央利さんを思う気持ちも分かります。」
天彦さんがアドバイスをすると急にふみやが立ち上がり外へ出ようとした。
「ふみや君?どこ行くの?」
「依央利のこと探してくる。」
「え!?自分も行きます!!!!」
「ダメ。大瀬は家に居て。」
「でも…」
「今の依央利が大瀬と急に話してもまともに話せないだろ。」
確かにその通りだと思った。今あってもまた喧嘩して悪化するだけだ。そう考え、大瀬は家に居ることにした。
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やってしまった………
無我の奴隷のくせに、怒って、別れを告げてしまって、飛び出してきて………最悪だ……
大瀬さんが良く行くという河川敷に腰をかけて自己嫌悪に浸っている。
本当はもっと遠くへ行こうかとも思ったが、夕飯を用意しなければいけないからすぐ帰ってこられる用に遠くには行かなかった。
「はぁ……大瀬さん、怒ってるかな………」
「怒ってないよ。」
「そうですかね~……って…え!?ふみやさん!?」
独り言をつぶやいていたら返事がかえってきた。
誰かと思い横を見るとふみやさんが僕の隣に座っていた。
「大瀬、お前のことすごい心配してるよ」
「大瀬さんは優しいですから……」
「依央利のことが好きだからだろ。」
「!?………でも、捺印はしてくれないんですよ……僕からの愛を必要としてないってことですから……」
「愛?」
「はい。僕にとって、服従は愛なんです。でも、それを拒むってことは、僕からの愛を受け取りたくないってことですよね…」
「依央利。」
「は、はい。」
「大瀬はそれが愛だって気づいてないんだよ。それに、大瀬は大好きな人に命令なんてしたくない、優しくしたいって言ってた。
大瀬は確かに優しいヤツだと思うよ。でもさ、俺たちに向ける優しさと依央利に向ける優しさが違うって丸わかり。」
大瀬さんがそんな風に思ってたなんて、僕は気づけなかった。なのに勝手に怒ってあんなこと言った自分が物凄く恥ずかしく感じた。
そして、特別に思ってもらってたのに気づけなくて、申し訳なさでいっぱいだった。
今振り返ると確かに僕との接し方が違うと感じる。それは、大瀬さんの愛だっと今、気づけた。
「帰って、大瀬さんに謝ってきまります!」
「うん。そうしな。」
「でもすいません…ふみやさんはご主人様なのに…」
「犬の躾をするのは主人の仕事だろ?」
「…はい!」
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「いおくん、怒ってますかね…」
「大丈夫ですよ、大瀬さん。きっと怒ってはいませんよ。」
ふみやさんを見送った後、天彦さんの部屋で相談をしていた。
クソ吉を気遣ってお声かけをしていただいたが、申し訳なさで死にたくなる。
「天彦は大瀬さんのお話が聞きたくてお誘いしたんですから、気に病まないでください。笑顔な大瀬さんが1番セクシーですから。」
「え」
天彦さんには自分の考えていることが分かったらしい。
これもWSAの力なのだろうか。
「大瀬さんは依央利さんに対して怒りの気持ちはありますか?」
「いえ…ないです。」
「きっと依央利さんも同じです。今頃、どうしたら大瀬さんと仲直りできるか考えていると思いますよ。」
「じゃあ…自分も考えます…」
「お供します。」
天彦さんにはかなり救われた。感謝してもしきれない。
自分だけだったら自殺する以外の解決方法を思いつかなかっただろう。何かお礼をしたいと言うと
「では大瀬さん。今晩、天彦と共に一夜を過ごしましょう……」と言われたがそれは断った。
断ると天彦さんはしょんぼりとした顔をしていたので申し訳なく感じたが天彦さんは「冗談ですよ。今晩は依央利さんの傍にいてあげてください。」と微笑んだ。
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「ただいま」
「た……ただいま帰りました…」
大瀬がリビングの床に座り込んでいるとふみやと待ち構えていた相手、依央利が帰ってきた。
「いおくん!」「大瀬さん!」
ほぼ同時にお互いの名前を呼ぶ声が響いた。
きっと2人共同じような事を話そうとしているのだろう。
「……僕から話してもいい……?」
「うん」
先に話したいと申し出たのは依央利は少し呼吸を整え、口を開いた。
「さっきはごめんなさい!!!!!………僕、服従は愛だって思ってて…それを拒否する大瀬さんは僕からの愛が嫌なのかもって勝手に勘違いしてた……」
「こっちこそ……ごめんね。いおくんのこと気づけなくて。」
「大瀬さんは悪くないよ……僕の思いを最初から言ってれば良かったのに…大瀬さんなら分かってくれるって勝手に甘えてた…」
「いお君。」
「はい…」
「大好きだよ。」
依央利の耳元で愛の言葉を呟くと2人は口付けを交わした。
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