コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夕食の後、竜之介くんが凜をお風呂に入れてくれただけでは無く、凜からのリクエストで寝かしつけの絵本読みも竜之介くんにお任せする事になり、私は凜が生まれてから一番楽な夜を過ごしている気がした。
ソファーに座ってベッドにいる二人の姿を眺めていると、凜に読み聞かせをする竜之介くんの優しげな声が聞こえてくる。
それがもの凄く心地良く感じて思わずウトウトしてしまう。
「――亜子さん?」
「……竜之介……くん?」
「凜、眠ったよ」
「あ、ありがとう! ごめんね、私、寝てた!」
「いや、構わないよ。疲れてたんだろうから。眠いならきちんとベッドで寝る方がいいし、今日はもう寝ようか?」
「ううん、大丈夫! それに、色々話したい事もあるから……」
「まあ、大丈夫ならいいけど、眠くなったらすぐ寝る事。いい?」
「うん」
「何か飲む? って言っても、冷蔵庫にあるのは酒とジュースとお茶、ミネラルウォーターくらいだけど」
「竜之介くんってお酒飲める人?」
「まあ、人並み程度には。亜子さんは?」
「私も人並みには飲めるよ」
「それじゃあビールでも飲む?」
「うん、飲みたい! 家じゃ全然飲まないから久しぶり」
「そうなんだ? けどまあ亜子さんってお酒弱そうなイメージだから飲まなくても納得だけどね」
「そうかな? 私はそれなりに強い方だと思ってるよ」
竜之介くんが冷蔵庫から350mlの缶ビールを二つ手にしてソファーへやって来ると、隣に腰を下ろした。
同じタイミングで缶を開け、コツンと缶を当てて『乾杯』と口にした私たちはそれぞれビールを喉へと流し込んだ。
久しぶりに飲むお酒というのは何だか凄く美味しく感じた。
元からまあまあ強い方だと自負していたところはあったけど、飲む量は人並み程度かそれより少し多いくらい。
これまで飲み過ぎた事など無かったし、缶ビールや酎ハイなんかは二本飲んでも少し酔う程度だった筈……なのだけど、久しぶりだった事や、疲れや眠気が原因なのだろうか。
気付けば私は缶ビール一本で既に酔いが回ってしまっていて、何だかやけに頭の中がフワフワする感覚に陥っていた。
「亜子さん?」
「へ?」
「大丈夫? 何だか妙にボーっとしてるみたいだけど?」
「そ、そんな事ないよ? 大丈夫大丈夫! それよりも、その、明日から一緒に住むにあたって色々とルールみたいなものを決めた方がいいのかなって思ってるんだけど……どうかな?」
「ルール? 例えば?」
「うーん、そうだなぁ、ご飯は極力一緒に食べるとか?」
「それは勿論、って言うか寧ろ一緒に食べたい」
「後は、その、竜之介くんは家賃と光熱費を負担してくれるって言ったけど、それはやっぱり申し訳無いから私も半分出すよ」
「いや、それについては本当にいいんだって。俺は別に亜子さんに負担をかけるつもりは無い。そのお金は凜や亜子さん自身の為に使ってよ。特に亜子さんはさ、普段から自分の事は後回しでしょ? たまには自分を優先したり、好きな事をしてもいいと思う。一緒に住んだら凜の事は俺も見れるから、一人の時間も大切にして欲しいと思ってるんだ」
「竜之介くん……」
「まあ、それでもきっと亜子さんはまた気を遣うんだろうから……それじゃあこうしよう」
「?」
「俺は金銭面を賄うから、亜子さんには家事をお願いしたい。勿論俺も出来る事はやるけど出来る事が限られると思う。家事は大変なんだし金銭面以上に負担が大きいと思うから充分釣り合いが取れるよ」
「…………」
これもきっと、彼なりの配慮なのだ。
腑に落ちない事は少しだけあるけど、ここでまたあれこれ言ったところで竜之介くんが折れる事は無いと分かっている。
「……分かった、それじゃあ家事は主に私がやるよ。何だか申し訳無いけど、金銭面での負担が少ないのは本当に有難いから嬉しい」
「それなら良かった」
「竜之介くん、ビール飲み終わった? 何か他のも飲む?」
「うーん、亜子さんは飲むの?」
「うん、もう少し飲みたい気分かも」
「それじゃあ俺も飲むかな」
「あ、私が取ってくるから座ってて」
「ありがとう」
ビールを飲んで頭がフワフワしていたけど、真面目な話をしていたら徐々に酔いが冷めたのか、物足りなくなった私は冷蔵庫へ向かう。
「竜之介くんは何飲む?」
「レモン味の酎ハイあったよね? それで」
「分かった」
一つはレモン味、もう一つはグレープフルーツ味の缶酎ハイを手にした私は彼の待つソファーへ戻り、二人で二本目の缶を開けた。