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最高すぎる…… 説明の過程でなんの曲が分かった私は天才か(?)
歌で愛を伝えるとき青さんらしさがめちゃめちゃでてて本当に好きです ... 花言葉とかロマンチックで素敵でした 🫶🏻´- 後、紫さん安定に可愛すぎました... 何でも出来る優等生なのにウブですぐに顔赤くなっちゃうとことか可愛いすぎます ... こんな素敵な作品を書いて下さり本当にありがとうございます ...
※ attention ※
・ stxxx
・ 青紫
・ nmmn
・ 学パロ
・ 不穏
四月上旬。端っこと端っこの席。ななもりさんと僕は、そんな遠い遠い存在だった。普通なら、関わることなんてないほどに。
(…綺麗だなぁ)
男の割に長い睫毛に、白い素肌。横顔もフェイスラインが綺麗に際立っていて、よく整った顔立ちをしているな。と、つくづく思う。
そんな彼はクラスの一輪の花。所謂、『高嶺の花』という存在だ。
そういうのって、美人な女の子に使うものじゃないの?と、初めは思ったけれど、彼の内面を知っていくうちに、その言葉が添えられる理由がわかっていった。
彼は顔だけじゃない、性格も成績もこのクラスでトップを誇っている。高嶺の花と名乗るには、十分すぎる人だろう。
「ころん!!」
「ぉわっ?!
……なんだ、ジェルくんか」
なんだって失礼やな!と、怒るのは、僕の幼馴染のジェルくんだ。
ジェルくんはあの高嶺の花と呼ばれるななもりさんの大親友で、遠目からずっと見てきてはいたが、本当に仲が良くて距離も近いから、正直滅茶苦茶羨ましい。
まぁ、妬むだけ妬んで話しかけられないヘタレな僕が悪いのだけれど。
「ころん、ホンマなぁくんのこと好きやな」
「……別に」
正論を突かれてしまい、思わず否定的になつてしまったが、今更隠しようもない。そう言ってる今も、僕は彼を見つめている。分かりやすいったらありゃしない。
ジェルくんはそんなこと分かっているので、照れんなって〜!なんて、大袈裟に僕の背中を叩く。地味に痛いからやめてほしい。
「正直、全然遠慮せずアピってもええと思うんやけど、ころん普通に優しいし」
「それはありがとうだけど、相手誰だと思ってんの??」
ジェルくんは距離が近いからそんなことが言えるんだ、物理的にも心も距離が遠いあのななもりさんに気安くアピールしに行くなんて出来ない。優しいだけじゃどうにもならないし、何より僕とななもりさんでは、どうも不釣り合いすぎる。
……まぁ、おこがましいとは思っているけど、何度も隣に並ぶ夢を見ている。夢見るくらいなら、迷惑もかけないだろうし。
「そんな遠い存在やと思わんくてもええやろ、他愛もない話しても、なぁくんは仲良くしてくれるしな 」
それはジェルくんだからじゃないのか。そもそも、他愛もない話すら思いつかないから、近づけないのだ。
そんなことも知らずに、ジェルくんは気軽にそういうことを言うからタチが悪い。出来てたらこんな苦労もしない。
「……どーせ、僕にチャンスなんてないよ」
窓際に座る一輪の花。窓の外の青い空がよく似合う彼に、きっと叶わぬ恋心を抱き、今日もまた、あの頃の夢を見る。初めて出会って、最初で最後の会話をした時の、あの夢を今でも思い抱いて。
四月下旬。夢は抱き続ければ叶うものなのか、僕にとある喜劇が起きた。
「もうすぐ今月も終わるから、席替えするぞー」
題は席替え。特に期待なんてしてなく、なんならどこだって構わない。彼との距離は、ずっとこのままなのだから。
きっと、ずっと。
「なぁくんの近くになれるとええな」
そんなことを思っていたら、ジェルくんが僕にそう耳打ちをしてきた。因みに、ジェルくんは僕の前の席で、本人曰く、ずっとここの席がいい。と言うほど、何故かこの席が気に入っているのだ。廊下側がいい。という人、この世でジェルくんくらいしか見たことない。
「いや、正直期待はしてないかなぁ。むしろ、こんくらい遠くから見てた方が気づかれないし、迷惑もかけないしね」
「好きな人と遠い席願望とは…お前ほんと変わっとるよな」
「一生廊下側がいいとか言うジェルくんも意味わかんないけどね?」
でも、そう思えば確かに、僕も僕で変わっているのかもしれない。
普通、好きな人には近づきたいと思うだろうし、それは僕だって同じだ。でも、近い存在になる前に、遠くからでも彼の顔を見ていたい。彼を見て、知った上で近づきたいのかもしれない。
僕のヘタレが卒業出来ない限り、近づくことなんて出来ないのだが。
「そんじゃ、番号が書いてある紙書くから、その席に行けよー」
だから僕は、ななもりさんと隣になれたら。とかは全く思わず、適当に選んで、適当にくじを引いたのだ。本当に、彼を見ていられるならどこでも良くて。
「ころん何番やったー?」
「五番。ジェルくんは?」
「なんと…前と同じ席引いたんよ」
「えマジで?良かったじゃん!」
まさか本当に望んでいた席に座れるとは、ジェルくんは本当に運の持ち主だ。
まぁ、僕も中々運はいいと思う。
なぜなら、この席は窓側…つまり、元々ななもりさんの居た席だったのだ。
(…うわ、)
改めて思ってみれば、物凄く嬉しくなってきて、口元がニヤける。絶対今の顔は気持ち悪いと思うから、手で口元を覆って、表情を隠した。
好きな人が、前居た席。
これってかなり嬉しいことなんだ。なんて、これだけでも喜んでしまう自分がなんだか気持ち悪く思えてくる。なんか、女々しいような気がして。
「あ、隣ころんなんだ」
「っえ……?」
ただ、喜劇はここからだった。
隣を通りかかるだけで、柔軟剤の華の匂いがふわっ。と、僕の鼻をくすぐった。華だけれど臭すぎず、鼻を撫でるくらいのほのかな甘い香りが、何より彼の存在を表した。
僕の隣の席は、もう二度と話すことも無いと思っていた相手_ななもりさんだった。
「よろしくね、ころん!」
遠い存在だと思い、ずっと彼を遠目で見てきた。だからこそ、今ここにななもりさんがいるのが信じられない。
隣になれたのは素直に嬉しいし、距離が縮んだのは、彼に近づく絶好のチャンスでもある。
……けれども
「……すき」
「へっ…?」
こんなに近いと、顔や声、ちょっとした仕草すら全てが見えてしまって、その度愛おしさが増して、抑えきれなくなってしまう。
案外、ヘタレって簡単に直せるんだな。なんて、頭で呑気に考えられるほど、僕の心には余裕が出来てしまった。
「ねぇ、ななもりさん。来月でななもりさんのこと落とすから、覚悟してて下さいね?」
「ぇ、あ、え…??」
口説かれていると気づくと、ななもりさんは困惑の声を漏らす。たしかに困ってはいるのだが、少しだけ僕に気を持ってくれたのか、美白だった頬が、苺のように赤く染めて照れていた。
「顔赤、照れてるんですか?」
思ったことがさっきから口から零れて止まらない。一度好きな人に『好き』と言ってしまえば、想いがどんどん溢れるから、それが溢れ口から出る。
本当、自分でも単純だと思う。
「だ…っ、だって、急にころんが変なこと言い出すから……っ!」
少し焦ったようにそういうが、否定的ではなく、むしろその事を受け止めた上で、僕のせいにしている。
「ずっと美人だと思ってたんですけど、案外性格可愛いんですね」
「へぁ………?」
あんだけ優秀で可憐なななもりさんだから、誉められ慣れてると思っていたし、ぶっちゃけ、告白なんてされても「ありがとう」なんて言って、軽くあしらわれると思っていた。
けれど、実際は物凄くウブというか、乙女のような性格を持っているようで、反応がいちいち可愛くて仕方ない。 好きな人ほど虐めたくなる。という言葉の気持ちを、初めて理解できるほどに。
『そんな遠い存在やと思わんくてもええやろ、他愛もない話しても、なぁくんは仲良くしてくれるしな 』
(…ほんとだったんだ、あれ)
入学したての頃、幼馴染のジェルくんが言っていた言葉を思い出す。近づけも話せもしなかったから、あんなの嘘だ。と、勝手に否定的になり、僕と彼の距離を無意識に自分で開けてしまっていた。
でも、話しをしてみて、それは本当だったのだと分かった。
「僕、絶対なぁくんのこと落としてみせるから」
紫陽花のように綺麗な瞳を真っ直ぐ見つめ、僕は彼にそう誓った。これは冗談ではない、嘘の告白なんかではない。と、なぁくんに分からせるため。
「……っは、やれるもんならやってみな」
あぁ、可愛い。
発言だけは男前だけど、顔はずっと真っ赤で、威張り切れていない。
威張り。というよりは、彼なりの強気なのかもしれない。
だから僕は、あえてそこを弄らないようにした。イジっても良かったとは思うけれど、少しくらい生意気な方が、落としがいがあっていいと思ったから。
「なに、急に強気だね。そんな自信あるの? 」
「うん。だってそっちが本気で来るなら、おれも本気で応えたいから」
あぁ、そういうところ。
「…好きですよ、ほんとに」
否定的じゃなくて、ちゃんと僕の声に応えようと検討してくれる。同性とか、そういうのを関係なしに。
本当、彼は優しい。
「んふ。結構ストレートに伝えてくれるんだね?」
「言ったでしょ?落とす。って 」
タイムリミットは来月。30日という少ない期間で、僕はクラスの高嶺の花を落とす。
僕の、僕なりの愛情表現で。
五月上旬。彼を落とすため、遠くで見つめていた四月の頃からは考えられないほど、僕は自分からなぁくんに近づき、話しかけた。
「おはよ、なぁくん。イヤホン付けて何聴いてんの?」
因みに、流石にずっと好き好き言うのはやめた。多分、あの作戦だと、いつかは慣れてしまいそうなので、今回からは普段通りの会話でいくことにした。
本当はもっと正面から愛を伝えていきたいけれど、一方的に行き過ぎてしまうと、逆に相手から引かれてしまう。
恋は天秤。愛は釣り合わなければ、通じ合えないものなのだ。耳馴染みのある言葉で言えば、『恋の駆け引き』というやつだ。
「おはよー。これね、めっちゃカッコよくていい曲なんだよ!」
まずは日常会話から。何でもいいから、彼がしていること、変わったところを見て、そこから会話に繋げていく。どんなに興味がないものでも、なぁくんがそれを“好き”と言うのなら、僕もそれを好きになる。
趣味が合えば、好感度も自然と上がるしね。
「へぇ…因みに、なんて曲なの?」
「んとね、“アスター”っていう曲なんだけど、」
「………え?」
曲のタイトルを聞いて、少し驚いた。
「あ、もしかして知ってる?」
「いや、知ってるも何も…」
“アスター”は、僕が作曲し、歌った曲。うまり、僕が作った歌だったから。
歌い手とか、作曲家をやっていたわけではない。高校の頃、ほんの出来心で作り、何気なくSNSにアップしたら、たまたまバズった曲なのだ。
「その曲、僕が作ったものなんだよね」
「_えっ、嘘!?」
正直にそれを話せば、なぁくんは大袈裟に驚いていた。何度もスマホと僕を繰り返し見つめては目を丸くしている彼が、初めてジェルくんに「作った」と言って聞いてもらった時と同じすぎて、思わず笑ってしまった。
「ふははっ!流石親友。ジェルくんと全く同じ反応するね」
「いや、するに決まってんじゃん!だっていつものころんの声と違いすぎるし、曲調も歌詞もカッコよすぎるし、凄すぎでしょ!?」
大好きな彼に褒められたのが素直に嬉しくて、思わず頬を緩める。100万回再生された時以来、この曲を作ってよかったな。と、改めて思った。
作るキッカケとなった出来事は、とある後輩_るぅとくんと同棲をしていたことだった。
高校は寮がついていた珍しい高校で、家から結構距離もあったので、高校の時はそこに住んでいた。そこに一緒にいて、仲良くなった相手がるぅとくんだった。
るぅとくんは作曲家を目指しているらしく、ギターが弾けるだけではなく、自分でオリジナルの曲を生み出し、更には歌詞も書けて歌も歌えるし、MIXだってお手の物。本当に音楽に特化していて、後輩なのに凄かった。
そんなるぅとくんの曲作りに、たまーに手伝いをしていたら、少しだけ曲を作れるようになっていた。だから、るぅとくんが修学旅行で居ない間、暇潰しに作った曲がたまたま良い感じにかっこよくなったので、帰ってきたるぅとくんに少し手直しをしてもらい、出来たことの喜びのあまり、ノリで投稿した曲_それが、アスターだった。
「おれ、くじけそうになったときとか、気分が沈んでた時。ずっとこの曲聴いてたんだ」
「え。そうなの?」
まさか、その一再生になぁくんが入っているなんて思わなくて、しかも、僕の曲を聴いて励まされていたなんて、嬉しいに決まっている。
「ねぇ、ころん。まだ曲って作れるの?」
「え…まぁ、一応。機材が家に残ってるから」
目を輝かせ、興味津々に僕を見るなぁくんが、無邪気で可愛い。この人、性格こんなに可愛いのに、誰とも付き合っていないのとが謎すぎる。まぁ、盗られていない方が、僕にとっては都合がいいのだが。
「じゃあ、もしその曲がおれに刺さったら、お望み通り、ころんと付き合ってあげるよ 」
「えっ、本当に?」
「うん。おれへのラブソングで、その愛を示してよ」
まさか、特大なチャンスを得てしまった。こんな他愛もない話から、絶好の機会を手に入れるだなんて、思いもしなかった。
曲を作る方法も、上手く歌うための方法も全て覚えているし、MIXと編集は、今でもお遊び程度にMODを作っているので完璧にこなせる。
「…分かりました。絶対、ななもりさんに刺さる曲を作り上げて、夢を叶えてみせます」
「ん、期待してるよ」
ただ、こうは言ってしまったものの、一つ問題点があった。
僕は曲は作れど、歌詞は書けない。
アスターだって、るぅとくんが“アスター”というタイトルと、僕が作った曲調を聴いて連想したものを文字に起こし、音楽と歌詞を組み合わせて、ようやく『歌』になったもの。だから、るぅとくんがいないと『曲』が『歌』にはならないのだ。
しかもお題は、なぁくんへのラブソング。曲調だけでは、なぁくんの想いを伝えきれない。歌において重要となるのは、 歌詞の方なのだ。
でも、この機会を逃す訳にはいかない。
(…久々に会ってみるか)
これも全て、愛おしい彼のため。そして、そんな彼と付き合うため。
愛を勝ち取るべく、僕は久々にるぅとくんへ連絡を入れた。
『久々に会えないかな?』
五月中旬。ようやくるぅとくんと用事が合い、放課後、寮の近くにあったカフェで会う予定が出来た。
ちなみに、この数日で曲は仕上げた。今回はラブソング。ということで、ベースとドラム。そしてシンセサイザをメインとした、リズムが良い感じの曲調に仕上げた。
正直、テンポはアスターの方がカッコいいとは思うけれど、なぁくんは多分、アップテンポじゃなく、ノれるようなリズム感のある曲調の方が好きだと思った。
それを踏まえ、AからBメロは同じリズムテンポで、ベースとシンセサイザをメインに仕上げ、ラスサビに向けてのCメロで、少し下げ、曲の温度差を作り、ラスサビで再び盛り上げ、感動させるようにしてみた。
少しだけ、アスターを連想させるように、最後の最後で盛り上げる。という所は寄せてみた。その方が、アスターを好きで聴いてくれたなぁくんが嬉しいと思ったから。
「あ」
「どうしたの、ころん?」
「いや、曲のタイトル考えるの忘れてて」
なぁくんに刺さる曲調を考察し、何度もコードを組み換え、何通りも曲調を考えを繰り返し、ようやく満足のいくものが出来たという達成感が大きすぎて、もう一つの仕事を忘れていたのだ。
「え、もう出来たの? 」
「出来た…と言っても、メロディーだけなんだけどね。」
大前提に、僕ができる仕事は、作曲と動画編集、あとは歌うことだけなのだが、作詞が出来ないということは、なぁくんには黙っている。
理由は、これはなぁくんへ捧げるラブソング。つまり、僕がなぁくんに、こう想っているんだよ。ということを、具体的に伝えるために作られる歌詞が、僕じゃない誰かが書いているなんて知ったら、彼は付き合ってくれないだろう。自分で書いたラブレターを他の人に渡させるのと同じ状況だ。
「作詞って、先にタイトルから決めるんだね」
「僕はね。実際歌詞書いた後に考える人もいるし、メロディーを作る前に考える人もいる、偶にタイトルを決めてから作業を始める人もいるよ」
「へー」
まぁ、これは全て僕がやってきたことと、るぅとくんの実体験だから、本当に作曲家の人がそういうやり方をしているのかは分からないけれど。
なんて、なぁくんには申し訳ないが、適当なことを言ってしまった。 ごめん、ほんと。
「因みに、アスターはどうやって決めたの?」
「あぁ…それは、僕が好きな花の名前が“アスター”だったから。カッコいい名前だったし、長すぎずちょうどいいと思ったからね」
因みに、あまりにもタイトルが思いつかなすぎて、適当に自分の好きな花の名前から取ったことは、言わないでおこう。
「アスターって、名前はめっちゃ馴染みあるんだけど、実際どんな花か見たことないかも」
「花弁の多さ的には、マーガレットに近い感じかな。何科とかあった気がするけど、忘れちゃった」
曲の題材として出てきた青白いアスター。つまり、水色のアスターは、花言葉に『信頼』という意味が込められていて、実際、るぅとくんが作詞する時も、その花言葉に沿って書いていたらしい。
僕をイメージしたから、水色のアスターを選んだと言っていたが、一応、他の色のパターンも考えてはいたと、るぅとくんは言っていた。
その時にるぅとくんに教わり、覚えているのは、青色のアスターの花言葉と、紫色のアスターの花言葉。他の色は、もはや何があったかすら覚えていない。
青色のアスターは、『信用』と、少し水色のアスターと近い花言葉を持っているが、どちからと言えば、『信じてよ』という、少し怖い系の意味だった。
そして、なぁくんの瞳の色_紫色のアスターの花言葉
「今度、買ってきてあげるよ」
『恋の勝利』や『深い愛情』という意味を持っている、と。僕の記憶違いでなければ、そんな意味だった。
「え、いいの?」
「いいよ、なぁくんのためだし」
それは、告白するに当たって、こちらとしても好都合。
花もあれば、告白もより“本気感”が出て、雰囲気も作れるし、なによりなぁくんも「みたい」と言っていた花だから、得でしかない。
「ありがと、楽しみにしてるね!」
まぁ、なぁくんはそんなこと知らないのだろうけれど。
(てか、もし知ってて言ってるなら……)
なんて、流石に自惚れすぎかと顔を横に振る。告白の返事を貰えていない以上、僕は敗北しているのだから。
「…ころちゃんの大学からここまでが遠いのは分かってましたし、遅くなるのも知ってましたよ……でも、流石に遅すぎじゃないですか?」
久々にるぅとくんと会って思い出したことがあった。それは、るぅとくんが極度なメンヘラ体質があること。そして、結構マメなタイプで、遅刻の余興時間が三分以内ということも。
「ごめん…好きな人出来てさ、その子と話してたら遅れちゃった、」
こんな理由じゃ、流石にブチギレられるな。と、怒鳴られることを覚悟しつつも、軽いノリでそう話した。
「…えっ。ころちゃん、好きな人出来たんですか?」
けど、意外にも怒ることはなく、むしろ僕の好きな人に興味があるような口振りでそう言った。
「そうなんだよね、その子絡みの事で、相談したいことがあるんだけど…いいかな? 」
そういえば、るぅとくんは恋バナとか恋占いとか、恋愛ごとが好きだったなと思い出した。もしかしたら、このまま恋バナ(というかなぁくんへの惚気)を話していれば、お説教タイムが避けられるかもしれない。と、少し期待を抱いて、そのことで遅刻した話から逸らし、そう聞いてみた。
「いいですよ、協力してあげます。ころちゃんの好きな人も気になりますしね!」
「ありがと〜、るぅとくん…っ!」
上手く誤魔化しきれたようで助かった、本当。
僕は色んな意味でるぅとくんに感謝し、そのままカフェの中へ入り、その話をしようと、入口の扉を開けたとき、るぅとくんに肩を掴まれた。どうしたのかと思い、るぅとくんの方を見ると、気味悪く微笑んでいるのが目に見え、一気に気分が下がった。
あ。これ、誤魔化しきれてないわ。
「その代わりと、遅刻した罪で、全部ころん先生の奢りで。いいですよね?」
「……はい」
これにはぐうの音も出ず、僕は大人しく財布を出すことにした。
メンヘラ体質の彼の目をすり抜けることは出来ないようだ。
「_それで、相談ってなんですか?」
案内された席に座り、一通り注文を終えたあと、頬杖をつきながら、るぅとくんはそう聞いた。僕は一旦水を飲み、コップを机にコトン。と置き、話を始めた。
「その好きな人に告白したんだよ」
「えっ、もう告白まで済ませてるんですか!?」
もう既にテンションが上がっている上機嫌なるぅとくんが、それだけできゃーきゃー騒いでいる。女子かよ。と、口に出しそうになったが、一回それでぶん殴られたことがあることと、その痛みを思い出し、その口を一旦紡いだ。
あのヘタレなころちゃんが…と、小声で言っていたことは聴き逃してないけど、僕はるぅとくんのような短期じゃないので、そこでキレず、話の続きを進める。
「うん。本当は今月中、僕が頑張ってその子を好きにさせるつもりだったんだけど、その子が僕とるぅとくんが作った曲を聴いてたっぽくてさ」
「アスターですか?」
「そー、挫けた時とか、辛かった時に結構聴いてくれてたみたいでさ」
「えっ…それは僕が嬉しいです」
歌で一番肝心な歌詞を作詞をしたるぅとくんは、言葉通り、本当に嬉しそうに微笑んでいた。なんなら感動のあまり、ほろり。と涙もこぼしていた。
普段からこの性格なら、ただの可愛い後輩なんだけどなぁ。と、余計なことを考える。
「るぅとくんも、あれ自信作だって言ってたもんね」
「はい、ころちゃんらしさと、アスターの花言葉を全て書き出せた歌詞だと誇って言えます!」
そんな面倒臭い後輩だけど、夢には本当に一生懸命に頑張ってくれているから、曲のことには常に熱心だから、るぅとくんの夢が一つ叶ったようで、僕も先輩として、友人として嬉しくなる。
「それでね、その子に『自分へのラブソングを作って、それが刺さったら付き合ってあげる』って言われたんだ」
「え、それならころちゃんだけで作った方が良くないですか?」
正論を突かれ、思わず「ぐぬ…」と声をあげる。
僕だって本当は、一から百まで一人で作りたい。でも、一番肝心な作詞が出来なくて、るぅとくんに作詞させようとしているなんて、最低にも程がある。
「だって…僕、作詞出来ないし。アスターだって、るぅとくんが作詞したから、作詞については僕何も学んでないから、正直どう書けばいいのかさっぱり……」
「あ〜、確かにそうでしたね…」
変なタイミングで、ほとんど忘れかけていた注文の品が届く。るぅとくんは僕の奢りだと分かっているから、無駄に高いいちごパフェを注文していることを思い出すと、やっぱ性格悪いなとつくづく思う。
「因みに、新曲のタイトル。まだ聞いてませんでしたけど、何にしたんですか?」
1番上に乗っているいちごを一口食べながら、作詞用の紙を鞄の中から出し、一番聞いて欲しくなかったことを聞いてくる。
一応、仮ではあるが、待ち合わせ場所に行く最中に、タイトルは考えた。けれど、どれも納得のいくものではないから、少し答えづらい。
「案は何個かあるんだけど…どれも納得いかなくて」
「ふむ…一応、全部聞いてもいいですか?」
本当は嫌。だけれど、タイトルがないと、作詞するとき、かなり手間取ってしまう。るぅとくんなら、完成したメロディーだけ聞いて、それに歌詞を合わせて書くことも出来るだろうけれど、相談に乗ってもらってる以上、無駄に迷惑をかけたくないから、候補案をまとめたメモ帳を開き、るぅとくんに見せる。
「んー……」
やっぱり、るぅとくんから見ても微妙なのか、パフェを頬張りながら唸った。
こういうときくらい真面目に聞いてほしいのだけれど、仕事中に甘いものが食べたくなる。というあれなのかもしれないので、そこには触れないでおこう。
「…っあ、僕これ好きですよ!」
数ページ巡って、ようやく納得のいくタイトルが出てきたらしく、るぅとくんはそれを指差した。
そのタイトル名は “敗北ヒーロー”だった。
「え、これなの?」
「はい!他に無さそうな、ころちゃんらしいタイトルでいいとおもいます」
少しディスられてるような気がしたが、勘違いだと思うことにしといて、とりあえず、タイトルが決まり、ようやく作詞に入ることが出来た。
「ラブソングだから、その人の好きなところを詰め込むとか、その人と過ごした日々のこととかがあるといいですよね」
「まぁそうだね」
なぁくんに向けたラブソングだというのに、全然ラブソング感のないタイトルだな。と、やっぱりタイトルには納得いっていないが、いつまでもタイトルで悩む訳にもいかないので、とりあえず先に進むことにした。
「なので、その子の惚気話でいいので、聞かせて貰えませんか?」
いいけど。と、返事をしようとした時。るぅとくんは自分のメモ帳とペン。そして、どこからか取り出したMP3の電源を入れるまでを、 この一瞬でやりだしてきて、流石にちょっと引いた。
これは、僕への協力心と、単純に僕の恋バナ(惚気話)を聞くため。そして、録音するということは、今後のネタにもされそうだ。
容量がいいというか、都合がいいというか…と、呆れつつも、なぁくんの惚気話と、なぁくんと過ごした日々のことを、数時間ほどるぅとくんに問い詰めされながらも話した。
そして、るぅとくんのパフェが食べきったと同時に、歌詞が完成した。
「ありがとうるぅとくん…!」
「いえいえ、僕も久々にころちゃんとお話ができて楽しかったですし、美味しいパフェを奢って貰えて満足しましたし、このくらいお易い御用ですよ!」
あとは、この歌詞と僕のメロディーを合わせ、そして歌うだけ。
一応、MV用にMIXしたものと、動画編集も久々に撮る予定ではあるが、まずはなぁくんに聴いてもらいたい。彼のために作った、彼のための歌を。
「…っよし、帰ったらまた頑張ろ」
今月もあと僅かで終わる。
公開日は5月29日_僕の誕生日に
僕はなぁくんに告白する。
5月29日。僕は放課後、なぁくんを体育館に呼び出した。
先に体育館に行き、歌の準備を進める。パソコンとスピーカーを繋げ、一度、音がちゃんと流れるかを確認する。
「音割れるかと思ったけど、案外いいスピーカー使ってんじゃん」
これなら、彼にいい愛唄を届けられそうだ。
ルンルン気分で、最後にマイクチェックをし、僕は左手に紫色のアスターを抱え、ステージの中心に立った。
「お、なぁくん見えてきたで」
ベランダから外を確認し、僕に合図を送ってくれた。
本当は演出をつけるつもりはなかったけれど、ジェルくんにこの話をしたら、「だつたらライブみたいに盛り上げていこーや!」と、演出を手伝ってくれた。
因みに、ジェルくんは演劇部で、体育館の貸出をしてくれたのも彼だ。本当、昔から世話にしかなっていない、良い幼なじみだ。
悪ふざけは昔からだけど。
「それじゃ、ジェルくん。ぶっつけ本番でごめんけど、頼んだとおりお願い!」
「はいよぉ!ころん、応援してんで!!」
「…ありがとう!」
体育館の電気が消え、ステージの幕が閉まる。すると、ちょうどいいタイミングで、なぁくんが体育館に入ってきた。
「うわ、暗っ…!? 」
彼の間抜けな声が体育館に響き、なぁくんがここに居ると実感した時、変に緊張した。マイクを握る手が、少し震える。
大丈夫、僕ならできる。
もう、あの頃の僕じゃないから。
カチ。と、マイクを付けた音を合図に、幕が開く。そして、ジェルくんが操作してるスポットライトで、僕の存在を表した。
「ころん…?」
「なぁくん、いや、ななもりさん。僕、貴方のために一生懸命作りました。貴方と付き合うために、貴方に好きと言ってもらうために……そんな想いを込め、作った貴方へのラブソング。どうか、受け取ってください」
ここのセリフは全部アドリブ。けれど、想いは全て本心だ。これまでずっと頑張って曲を作ったのも本当だし、なぁくんと付き合う夢を叶えたいと思いながら作ったというのも事実だ。
これは、そんな僕が作った、まだまだ未完成な、彼との未来が決まる歌。
「…『敗北ヒーロー』!」
タイトルコールと同時に、アスターを持っている腕を掲げると、曲が流れ出す。
「わ……」
なぁくんの関心したその声は、大きい音楽の中でもハッキリと聞こえた。
「進めヒーロー_ッ!!」
歌った。最後まで、貴方のことを想って、貴方のために歌った。
やっぱり満足のいかないタイトルだけど、でも、歌いきった今、何気にこのタイトルが一番しっくりくるような気もした。
「はぁ…はぁ………っ、ななもりさん」
ステージから飛び降り、僕は紫色のアスターを抱え、ななもりさんに近づく。
アスターは、僕がずっと持っていたせいで、少し萎れてしまったけど、目の前の一輪の、一輪だけの花は、雨に打たれた紫陽花のように綺麗に輝いていた。
「これが、僕の想いです。どうか、このアスターと一緒に、僕の想いも受け取ってくれませんか?」
そんな彼に添えるのは、やっぱり元気に咲いているアスターの方が良かったなと思う。けれど、アスターが萎れているからこそ、今目の前の彼が“高嶺”に見えるのかもしれない。
「…もう、ほんと……ズルい」
ななもりさんは、嬉しそうに微笑みながら、涙を零していた。その瞳は、明らかに僕だけを捉えていて
「あーぁ、落ちるつもり、なかったんだけどなぁ……っ」
ななもりさんは、アスターではなく、僕に手を伸ばし、ギュッ。と僕を抱きしめた。その衝撃で、アスターは地面にパサッ。と落ちてしまったが、気にせず僕は、ななもりさんという高嶺の花を抱き抱える。
「流石に、カッコよすぎ」
そう笑うと、ななもりさんは、ちゅっ。と、軽いリップ音を鳴らし、その唇を僕の唇と重ねた。
あぁ。ようやく、手に入ったんだ。
離れた唇を、今度は僕から重ねた。何度も何度も、離れては重ねてを繰り返し、何度もななもりさんからの愛を確かめた。
「…あのー、お熱い所失礼しますが、俺の存在忘れてへんよな……?」
「うわぁっ!!ジェルくん、いたの!?」
そういえば、なぁくんはジェルくんがいた事を知らなかったな。と、呑気に思う。
ぶっちゃけ、ジェルくんのことは忘れかけていたし、本当なら邪魔せずそのまま去ってほしかったのだが、なぁくんと付き合えたし、それにジェルくんは協力してくれたしで、文句も何も言えない。言えないけど、流石にもうちょっとタイミングを考えてほしかったと思うくらいはさせてほしい。
「ありがとね、ジェルくん」
「全然。大事な幼馴染のためやしな!」
ジェルくんは本当にいいやつだから、恨み用がないし、今回の件では、本当にお世話になった。ジェルくんには感謝しかない。
「…ねぇ、ころん」
「ん?」
さっきのキスしてた所をジェルくんに見られた恥ずかしさが、まだ頬に残っている。そんななぁくんの頬を撫で、彼の返事を待った。
「おれの誕生日、6月23日なんだよね」
頬を撫でる僕の手を両手で包み、何かおねだりするような仕草をみせるなぁくんが、可憐な乙女のようで可愛いらしい。
「…また、おれのために歌ってくれる?」
僕より背が高いはずなのに、上目遣いにそうねだるなぁくん。そんな彼の願いを、断る理由なんて何処にもない。
「勿論」
さて
次はどんな曲を作ろうかな。
8000文字くらいで終わると思ってたのに思いっきり1万文字超えてしまって申し訳ない。
現在深夜二時、寝ます。
to be continued … ?
~♡3000⤴︎︎︎