照度を絞った部屋の灯りでも、輪郭まではっきりとわかるゼロ距離。その額にはじわり汗が浮かんでいる。
重力に抗い伸ばした手で張り付いた前髪の赤を掻きあげてやれば、その指先ごとゆるく握り込まれて直に若井のくちびるが押し当てられた。
隙間からこぼれた吐息の熱さと、耳輪を擽るように滑る対の手の思いの外低い体温とが、熱を分け合う様に自分を介して混じり合っている。
今しがた放たれた精を腹の奥で感じながら、既に力の入らない両の脚で挟み込んだままの若井を改めて見上げる。
10年というのは本当に、あらゆるものを作り替えてしまうには充分過ぎる日々だ。少し青さの残る顔も華奢で薄かったはずの身体つきも、互いへの想いだってそう。
出会った頃から随分カタチをかえたものだと思う。
「ーーっあ、」
トンっ、と。
微睡みのなか不意に深いところを突かれて、とびかけていた意識が引き戻された。ベッドに沈み込む重たい頭からとろり見上げたその視線の先で、自分を組敷く彼が少しだけ悪い顔を覗かせている。
「考えごとなんて余裕じゃあん?」
ね 涼ちゃん、と。
器用に、片側だけ引き上げられたその唇の端を舌先が紙め上げるさまと、次いでかち合った目に射貫かれた。
常々、彼の操る緩急ほど狡いものはないと感じている。だってこれだけでも簡単に煽られてしまうから。
だから、だなんて言い訳がましく言うつもりなんて無いけど、臍の奥のおくの方がきゅうんっ、て。
有りもしない子宮が反応する馬鹿苦い感覚に、小さく息を詰めた。
「――――っかいのっ・・・こと、だよっ・・・」
障害物だらけだと、思っている。そう易易とはいかない要素がみっしりと詰まっているのだ、二人の間には。
ゆるゆると再開された動きに合わせて、途切れながらこぼれる声にキモチイイ色が隠せない。あまりに露骨ではしたなくって、ほんとは恥ずかしい。けど、若井が喜ぶから極力我慢はしないことにしている。
弧を描きながらご機嫌に降りてくる唇を、赤らんだ自分のそれで受け入れて。舌先から次第に深く絡む熱に応えるうちに、今日もまた夢中になってしまった。
――この関係は誰が見たって苦しくて。
けれど、泣き出しそうなふるえる呼吸を何度飲み下したところで、自分の気持ちは誤魔化せそうにないと気づいてしまったから。
だからさ、心の底から愛されてるって
心配なんて杞憂だって
この身体にちゃんと解らせて
どろっどろに溶かしちゃってよ おねがい。
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