柚子目線
宴の会場に着くと、もう数百人ばかりの妖が集まっていた。
一人一人が人間と大違いの美貌を持つ中でかけ離れて美しい玲夜と璃夢のオーラときたら。
1、2分もせずに璃夢と玲夜の周りに女性が群がってきた。
玲夜は勿論、まだ花嫁のいない璃夢の伴侶になろうと必死なのだろう。
柚子が玲夜の横であたふたしていると玲夜が柚子を見て微笑んだ。
めったに笑わない玲夜を見て、数々の悲鳴が聞こえてきた。勿論、全員女性のものだ。
「大丈夫だ。ここは璃夢が何とかしてくれるだろう。見ておけ。」
あまりにも自信ありげに言うものだから、柚子も信じざるを得ない。
すると、微笑んでいる玲夜の横から、地のように低い、何とも威圧のある声が聞こえた。
「失せろ。」
璃夢の発したこの一言でどれだけの人が凍りついたか。
璃夢の女性の様な可愛らしい見た目とは裏腹に、宴の時だけだが、柚子と紗良、撫子以外の女性には氷のような眼差しを向けていた。
そのことはあまり知らない者が多い。
一瞬で柚子の前から人が消え失せた。
「ほーら、行こっ。」
璃夢は気にするなと言わんばかりの明るい声色で玲夜と柚子の手をひいた。
向かうは妖狐の当主、撫子の元だ。
暫くして撫子の元へ着くと、柚子は撫子へ深々とお辞儀をした。
「玲夜の花嫁です。本日はお世話になります。」
すると、撫子は銀髪の髪をなびかせ、なんとも嬉しそうに言った。
「ほほう、可愛い女子じゃのう。若もいい娘を見つけてきたものじゃ。我も若の緩い顔を見れて満足じゃよ。」
撫子はデレデレの玲夜へ目を向けて言った。すると、今度は璃夢のもとへ開き直る。
「そうそう、其方に合わせたい者がいるのじゃが。今宵、時間はあるかね?」
撫子は璃夢の顔を窺うように言った。
「ええ、構いませんよ。」
柔らかい笑顔で璃夢が言うと、撫子はステージの裏に周り、1人の少年を連れてきた。
朝顔の様に鮮やかな薄い紫の髪に、少しタレ目で頬にあるハートの傷の様なあとが特徴的な、肩に兎を乗せた男の子。
少し癖毛で、市松模様の着物と紫色の袴を着ている。
低身長で、守ってあげたくなるような儚い雰囲気を纏っている。
一目で妖と分かる様な、玲夜にも負けない顔面偏差値とオーラだった。
あまりの美しさに柚子は息を飲んだ。
「そちが今日から其方の屋敷で世話になる初兎じゃ。大切にしてやってくれ。」
「初めまして兎とかいて初兎です~。今日からお世話になります。」
初兎はぺこり、と可愛らしくお辞儀をした。
そういえば、玲夜の幼なじみが暫く屋敷に留まるという話をどこかで耳にしたような。
「………………」
璃夢は無言のままで、言葉を返さない。
ふと顔を上げて璃夢の顔を見てみると、少し目を見開き、頬を染め初兎の前で立ち尽くし、見惚れている。
暫くして璃夢ははっと我に返ると慌てて挨拶を返した。
「かっ、歌想乱璃夢と申します。本日からお世話になります。」
そう返し一礼をする。
璃夢のその顔は完全に恋する乙女の顔だった。
玲夜を見ると、こりゃ~落ちたな、と苦笑いして柚子の手を握る。
璃夢の恋愛事情も先が見えないな、と苦笑した。
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