1.指名手配犯の男
あいつの後ろから殺気がじわじわと溢れ出ている気がして少し息が荒くなった。ここで嫌とでも言ったら俺はどうなってしまうのだろうか。殺されるのだろうか。
自分が死ぬのだけは嫌だった。生きたくないなんか何億回も言っているのに。
「帰るから、殺すだけはするな」
「人って、どうして死にたいって言ってるのに殺されたくなくなるんでしょうね」
目の翠色のように澄んだ声は俺を闇に誘導しているようで血の気が引いてきた。それに殺人事件や交通事故を起こす奴が敬語を喋るなんて、この勢いで体内の血がすべてどこかに行ってもおかしくないような気もする。
「こんなとこで重い話すんなよ…。まずまず一緒に帰りたいっつったのお前だろ!?帰る気ねーの?」
「すみません。あ、言い忘れておりました。私の名前は和栗淚です」
どこかで聞いたことがあった。
そうだ。重要指名手配犯の一人だ。今すぐにでも警察に連絡して逮捕してもらいたいがなんとなく厄介なことになりそうだ。あきらめたほうが早い。
「俺は早く帰りたいの。行くぞ?」
「はい。東雲さん」
口から見せた白い歯は気味が悪いほど光っていた。唇もとても鮮やかな血が付いたように紅かった。
そして淚からは微かに血の匂いがしていた。
和栗 淚(かずくり るい)
高校3年生。指名手配犯。
天哉のことが好きで独り占めしたいあまりに天哉のことを尾行している。(ちなみに中2で車を盗み天哉の母を殺した犯人でもある)
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え、え、え、え、え、あ、え?