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僕が目を覚ました時にはもう2人は居らず、一冊の本が雑に落ちていた。2人は今頃ポオくんが作った小説の中で何かを話しているのだろう。まぁ話の内容は大体思い浮かぶけど。
僕は鉛のように重い体を起こし、本が落ちている場所へと向かった。その道中、2人が突如現れ、社長はおじさんの刀を握っていた。僕は厭でもこんなの見ちゃったら判っちゃうよ。今から社長はおじさんの首を跳ねるつもりなんでしよ。でも、どうせ 福沢さんはおじさんの首を斬ることなんて出来やしない癖に。それに、輝子さんが後方のコンテナに隠れている。と云うことはおじさんは福沢さんが自身を斬らない、否…斬れないと云う事を判っているから、おじさんは輝子さんに福沢さんが殺せないと云ったら刺してくれとお願いしたのだろう…おじさんは輝子さんの気持ちを知っていて尚、その役を預けた。…つくづく思う、あの人は狡く、切なく、悲しい人だな。
今思えばおじさんこと福地さんは、探偵社設立記念に一番初めに祝いに来てくれた人だった。初めの印象は凄い活発で大柄な態度で、そして福沢さんの親友なのだ云う事だけしか知らなかった。だが今回の事で漸くあの人の事を厭でも判った気がした。 て云うかおじさん、福沢さんに向かって総師になれだなんてハッキリと呪いの言葉を残して逝くなんて、 ほんっと最後まで狡い人だったなぁ。
あのね福地さん。もう貴方には教えてあげられない事なんだけね、僕が貴方に伝えたかった事心の中で云うね。
福沢さんはね、ずっとおじさんの事親友だって、お酒に酔ったらずぅーっと話してたよ。ふざけた奴だが、悪い奴じゃないんだ。とか源一郎のこと信じてくれ。って。僕、正直おじさんの事すっごく羨ましかったよ。だって福沢さんは僕に完全に心を開いてなかった。何時も心のどこかで不安が見えていたんだ。だのに、福沢さん、おじさんと会ったらいつも柔らかい表情で、どこか儚で不安なんて無くて…顔の変化が豊かだったんだよ。僕にはそんな表情見せてくれたことなんだよ。羨ましいよ。妬ましいよ。
「…僕、早く産まれて福沢さんと幼馴染になりたかった。親友になりたかった。だから、貴方の事が凄く羨ましかったよ…」
バタッ。
音が鳴る方を見ると静かになった福地さんを福沢さんが抱えていた。福沢さんは大声を出し、大粒の涙を流していた。
「社長。これどうするの」
僕はワンオーダーを片手に福沢さんの元まで行き、福沢さんに渡した。福沢さんはワンオーダー手に取ると激しく怒り、ワンオーダー地面に叩き付けようとした。けど、福沢さんは壊さなかった。まぁそりゃ、最期の親友の頼み事だもんね。躊躇っちゃうよね。
ねぇ福沢さん。
貴方は僕にこれからも福地さんの時の様に完全に心を開く事はないんでしょ。でもね、喩えそうだとしても僕は貴方の事が好きなんだ。その貴方の腕の中で息絶え、安らかに眠る貴方の親友よりも僕は貴方のことを愛してる。ずっとそう思ってた。だけど今、この瞬間で僕は悟っちゃったんだ。福地さんも、福沢さんも、二人は両方を想っていたんだって。始めっから僕に勝ち目なんて無かったんだ。…この瞬間で悟ったってのはやっぱ嘘。福沢さんが福地さんの事話してた時から判ってたよ。僕が福地さんに勝つ事なんて無いこと。福沢さんと僕が過ごしてきた時間は、福地さんと福沢さんが過ごして来た時間に比べてみればちっぽけで、よくあるものだと。心の中では判っていたのにさぁ…。
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「乱歩」
「な、なぁに」
声を掛けられると思ってなかった為か、福沢が声を掛けて来た時、乱歩は思わずびっくりして声が裏返って、変な返事になっていた。
「私は…どうすれば良いのだ…」
福沢から発せられた言葉は乱歩が予想していたものとは異なり、福沢からは考えられぬ言葉だった。
「社長がそんな事云うなんて珍しいよね」
「…」
「…どうすれば良いって、それは一番社長が判ってるんじゃないの?」
「…そうだな」
乱歩は、福沢がここまで追い込んだ顔をしているのを初めて見た。何時も乱歩が見る福沢の顔は溜め息を吐きながらも仕方ないな、と微笑した顔、大人の余裕がある顔、乱歩の為を思って叱る顔、そして探偵社全員を引っ張っていく格好良い姿だけであった為、乱歩は驚き数秒の間固まっていた。
(…ほんと僕はこう云う時、大人の対応が出来ないし、頼りない。所詮、推理が出来るだけの餓鬼だよ…こんな自分が情けない。だから僕は福沢さんに何時までも心を開いて貰えないんだよ、そんなの莫迦でも判ることなのになぁ…)
「乱歩、迷惑を掛けたな」
「…ううん、社長は迷惑なんて掛けてない」
今、乱歩の口からはこれ以上の言葉が見つからなかった。それ以外、掛ける言葉がなかったからだ。
(あぁ、神様。居るのだとしたら貴方は如何して福沢さんにこれ程の事をなさるのですか…如何して報われないんですか…どうしてこんな…世界は醜く、残酷なんですか…如何して…何で……こんな運命にしたのですか…)