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俺はトテトテと歩いてきたマナミに、話しかけた。
「よう、マナミ。調子はどうだ?」
瞳《ひとみ》の色がミノリ(吸血鬼)と同様に五色であることを確認できたため、この現象は『心の暴走』によるものだということが、ほぼ確定した。
マナミの目つきがいつもと違うのが少し気になったが、俺はそれ以上考えるのをやめた。
「はい、私は至って正常です。これも、あなた様のおかげです。ありがとうございます」
「……ん? なんかいつもと口調が違うな。お前、もしかして、もう一人のマナミなのか?」
「はい、そうです。私はこの者《もの》の中にいるもう一つの人格です。『聖騎士 マナミ』とでも名乗っておきましょうか」
「獣人型モンスターチルドレンが多重人格だってのは知ってたけど、マナミの場合はこんな風になるのか。へえ、なんか新鮮だな」
「そうですか? しかし、残念ながら、私は毎月十五日の午後九時から午前|零《れい》時までしか、この体の持ち主と入れ替わることができません。なので、短い間ですが、よろしくお願いします」
「お、おう、こちらこそよろしく」
「コホン……。さて、そろそろ本題に入りましょうか。えー、この体の真の持ち主は眠《ねむ》りにつく直前に、私にこう告げました」
聖騎士 マナミは目を閉じて深呼吸をすると、キッ! と目を見開いて、こう言った。
「遊んでほしい……と」
「えっ?」
「それがこの体の真の持ち主の願いです」
「えーっと、それはどういう意味で言ったんだ?」
「そのままの意味です。普通の人間の親と子どものように遊んでほしいそうです」
「……そっか。それがマナミの望みなんだな。よし、分かった。それで具体的には何をすればいいんだ?」
「そうですね、では『指相撲《ゆびずもう》』でもしますか?」
「ほう、この俺に『指相撲《ゆびずもう》』を挑《いど》むとはな」
「あなた様は得意なのですか?」
「得意というか、人間離れしたやつらと結構《けっこう》やってたからな。それなりには強いと思うぞ」
「なるほど。ならば、本気でやっても構《かま》いませんね?」
「それはもちろん。ただし、俺の手が砕《くだ》け散《ち》らないように優しく握《にぎ》ってくれよ?」
「承知しました。では、参ります」
俺と聖騎士 マナミは向かい合って座ると、お互いの右手を握った。
親指だけをピンと立てて合図を待っていると、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)が「それじゃあ、スタート!」と言ったため『指相撲《カオス》』が始まった。
「先手必勝! 参ります!」
「おっと! 危ねえ、危ねえ」
「それっ! それっ! それっ!」
「ほう、なかなか……やるじゃないか!」
「バ、バカな! 私の『|連続指潰し《デスプレス》』が効かないなんて! あなた様はいったい何者なんですか!」
「おいおい、この程度で驚《おどろ》くなよ。こんなの序の口だぞ? さてと、それじゃあ、久々に『アレ』を使おうかな」
「ふむ。何か秘策があるようですが避《よ》けきってみせます!」
「さぁて、そう上手くいくかな!」
「くっ! な、なんですか! この動きは! これが人間の指の動きですか! この動きはまるで!」
「タコのようだ……とでも言いたそうだな?」
「潰《つぶ》そうとするとスルリと回避《かいひ》され、逃《に》げようとするとタコの足のように絡《から》みついてくる! いったい、なんなのですか! この技は!」
「『|軟体動物の腕《オクトアーム》』。その名の通り、自分の指をタコの足のように自由自在に動かすことによって、攻守どちらにも対応できる俺の必殺技だ」
「そ、そんな技は聞いたこともありません! あなた様は本当に人間なのですか!」
「人間だよ。ただし、人間離れしたやつらと共に高校生活を過ごした、ちょっと特殊な人間だがな」
「……なるほど。そういうことなら、負けても仕方ありませんね」
「そうか。んじゃ、遠慮《えんりょ》なく、やらせてもらうぞ。そいっ!」
「ふにゃあ!!」
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。よし、俺の勝ち! いやー、久しぶりに楽しめたよ。ありがとな、マナミ……じゃなくて、聖騎士 マナミ」
「…………」
「ん? どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
「……ナ、ナオトさん」
「ん? お前、まさか元に戻って」
「ナオトさあああああああああああん!!」
「うわっ!! な、なんだよ! いきなり!」
マナミ(多分、元に戻った)は俺にいきなり抱きつくと、そのまま俺を押し倒した。
「ナオトさん!」
「な、なんだ?」
「ナオトさん!」
「お、おう」
「ナオトさん!」
「うーんと、とりあえず少し落ち着こ……」
「私と遊んでくれてありがとうございます!!」
「え? あ、ああ、どういたしまして」
「私は今まで両親と遊んだことがありませんでした。シオリちゃんは姉妹なので、いつも一緒でしたけど、本当の両親の顔を私たちは知りません。ですが、ナオトさんは本当に楽しそうに私と遊んでくれました! ですから、その感謝の気持ちをナオトさんに受け取ってほしいです!」
「つまり、俺がお前の願いを叶《かな》えたから、次はお前が俺の願いを叶《かな》えてくれるってことか?」
「はい! その通りです! さぁ! なんでも言ってください!」
「な、なんでもって、言われてもな」
「あっ、そ、その……エ、エッチなお願いは、ちょっと無理ですけど」
「うん、そこは安心してくれ。俺はロリコンじゃないから」
「そうなのですか? そういうことを言う人ほど、ロリコンだと聞きますが?」
「いや、それは誤解《ごかい》だから! 俺は本当にロリコンじゃないから!」
「わ、分かりました。ナオトさんを信じます」
「あ、ああ、分かってくれたのなら、それでいい」
さて、何をお願いするかな……。無理なお願いをすると、元の人格に戻ったマナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)も困《こま》ってしまうだろうし。
うーん、どうしたものかな。いや、待てよ? これなら、いけるんじゃないか?
俺は瞬時《しゅんじ》に思いついたものをマナミに言ってみることにした。
「マナミ」
「は、はい!」
「その……お、俺と……星を観《み》ないか?」
「えっ? 星……ですか?」
「ああ、そうだ。この世界でじっくり星を観《み》る機会なんて今までなかったから……って、やっぱ、こんなんじゃ、ダメだよな。すまない、もう少しだけ考え……」
「分かりました!」
「えっ?」
「ナオトさん! 私と一緒に星を観ましょう!」
「えっ、あっ、うん、お前がそれでいいなら俺はいいけど」
「そうですか! なら、早く外に行きましょう!」
「あっ! おい! マナミ! ちょっと待ってくれよー!」
それから、俺たちは一緒に星を観《み》た。やっばりどんな世界でも星は美しい。
まあ、俺たちが今、観《み》ている星の輝《かがや》きは何年か前の輝《かがや》きなんだけどな。
だけど、今はそんなことはどうでもいい。だって、今こうして星を観《み》ている俺たちにはそんなことを考えながら観《み》る必要はないのだから……。
|久々(ひさびさ)に天体観測をした俺は、とても満足だった。
マナミの目がずっとキラキラと輝《かがや》いていたし、これで二人目もクリアかな。(星の説明をしようと思ったが、マナミは星を観《み》ているだけで満足していたため、今回はしなかった)
俺たちが部屋に戻ると、マナミがいきなり俺の背中にしがみついてきた。
「ん? どうしたんだ? マナミ」
「眠《ねむ》くなっちゃいました。最後のお願いです。私を寝室まで運んでください。ご、ごめんなさい、ワガママなのは分かっています。でも……」
「たまには、いいんじゃないか? ワガママになっても」
「……そう、ですね。それじゃあ、よろしくお願いします」
「承知した。それじゃあ、行くぞ」
「はーい。えへへー、ナオトさんはやっぱりいい人ですー」
「いい人……か」
俺がマナミをミノリ(吸血鬼)のとなりに、そっと置くと今度はシオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)が俺の背中にしがみついてきた。