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「ーーーーーーッッッッ!!!」
ねぇ、お母さん。
そんなに怒らないで。
ああ、痛い。
殴れたのかな。
お腹の辺りがじんじんするよ。
なんで殴るのかな。
いつまでこんな生活を続ければいいのかな。
もう、いっその事お母さんを殺せば…
「聞いてるのッッッ!!??」
という母の甲高い叫び声が聞こえ、私、坂口 朱里 (さかぐち あかり)は我に返った。
東京の中心部である六本木から少し離れている築50年のオンボロマンション。そこに春から高校1年生になる私と母は住んでいる。1LDKのオンボロマンショの壁は薄く、部屋は1つしかない。母は夜になると露出度の高い高級そうな服を着て、夜の街へと出かける。1つしかない部屋を占領されている為、私はリビングのソファで寝ていた。いつ帰ってくるか分からないのでベッドは使えない始末。
キッチンの流し台には汚れた皿がつまれていた。洗わないとな、と思いつつ母に目を向けると、そこには鬼の形相をした母が腕を組んで仁王立ちしていた。
私は先程殴られたお腹を無意識に腕で囲み、頭を守るように床に座って蹲っていた。
先程の質問に答えようとした時、次は頬を叩かれる。
いい加減にして欲しい。
明日は高校の大事な入学式なんだよ。
目立つところに傷を付けないで欲しい。
いつまで続くのかな。
母の怒鳴り声を聞きながら、私は愚痴を心の中に零す。
私が10歳の時に勝手に離婚して、その腹いせに私を殴ってくる。
毎月父からの養育費は振り込まれているらしいが、それっきり。
父も私と母のことなんかどうでもいい。
…最近は優しくなったと思ったのにな。
また、男に捨てられたのかな。
痛いよ。お母さん
答えても意味が無いと感じた私は大人しく黙ることにした。
顔を下に向けると、足に大きな痣が沢山あった。これも、全部母のせい。でも幼い頃のほうがもっと傷はあった方だと思う。よく、虐待なんて疑われなかったよね。
…あの時から大人の表情ばっか伺って生活してたな。
生きてる意味あるのかな。
こんな私…しんでしま「あかりちゃん。本当にごめんねぇ。こんなお母さんで。」
下を俯きながら考えてた私の頭に優しい声が響いた。
母の声だった。
ギュゥと抱きしめられたところから暖かい体温が伝わってくる。
私の肩に母は顎を乗せる。
私の肩が涙で濡れるのに時間はかからなかった。
母は私を殴ったり、暴言を吐いた時には必ず抱きしめて謝ってくる。
「ごめんねぇ。朱里ちゃんのことは大好きなんだよ。お母さんには朱里ちゃんしか居ないんだよ。離れていかないでね。ごめんねぇ。」
と、呪いのように私に言い聞かせる。
今すぐにここからでなければ私は本当に壊れてしまうことぐらい分かりきっていた。
でも、私しかいないと泣いている母をみて一体誰が離れようと思うのだろうか。
産んでもらった恩がある。
こんな母だけど調子がいい時は卵を焼いてくれる。
そんな母が少ならからず私は好きだった。
私は強く抱きしめて泣いている母を優しく抱き締め返して「ううん、お母さんが幸せでいてくれたら私は大丈夫だよ。どこにもいかない。だから安心して」と、模範のような答えを言う。本心のようで違う。私は壊れてしまうと知っている上で逃げようなど本気で思っていなかった。
ついに、私も高校デビューを果たした。
桜が満開に咲く門をくぐり抜けて、入学式に出席した。
新しい制服に、新しい学校。
母が進めた公立高校は、最近校舎を立て替えたため、説明会で来た時よりも綺麗になっている。
もっと勉強していい成績を収めよう。
そう誓った私は1つ呼吸をして、痛むお腹を撫でながら式場である体育館に入った。
第3話 教室での出会い
coming soon𓂃❁⃘𓈒𓏸