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記憶の片隅
まず、大前提として我々の罪について問おう。
その1**。**
ユダヤ人に対しての迫害。
きっと、これは決定的な我々への罪となるだろう。この問題についての責任は、我々ドイツ人一人一人の責任であるだろう。
その2**。**
戦争の拡大、その被害。
この観点から見ようとも、我々は罪を犯した許されざる存在と言える。
あの忌まわしき悪魔の総統が、世界を揺るがした。
この世界を、平和を壊したのだ。
そして、彼を望んだのは我々自身だ。
「さあ、これからが本番だよ」
淡々としたムービーには、見覚えはなく、ただうすぼんやりと罪の意識が痛みとなり襲い掛かる。
「これからって、何を語るの?
私たちは、きっとたくさんの被害を生んだ加害者でしょう?
それ以外何があるの」
「これから分かるさ」
ばんっ!
画面上には大きな古ぼけた写真が映し出された。
「………ひどい…」
目の上を腫らし、その顔は痩け、その瞳には深い、深い憎しみが篭る。
確かに、私の国民の姿。
「……この、写真は何?」
「迫害の記憶ですよ、祖国」
「私たちの?」
「ええ」
彼はまた、淡々と語り始める。
「昔の話です…と、言っても貴方にとってはたかが60年あまりでしょうが」
東欧に住み着くドイツ人の話である。
1945年。チェコスロバキアはナチス・ドイツによる支配からの解放を受け、一つの独立国として名を挙げた。
苦痛の支配から抜け出したチェコスロバキア人たちは、酷く歓喜しただろう。
一方で、ドイツ人である人々はどうか。
否、自分達を苦しめた忌まわしきナチス・ドイツの民族であり、敵であることを彼らは知る。
彼らは、即座にドイツ人に対しての暴力を行った。
目立つ場所には逆さ卍を、その身体には傷跡を。
写真に映し出された少女は、映像として残った少年らは。
「これらは解放されたチェコスロバキア人による迫害により苦しみを味わったドイツ人の映像です」
「貴方は、これを見てどう思いますか」
「……」
沈黙が、この部屋を訪れる。
嫌な冷や汗が体を垂れて、少しだけ寒気を起こす。
「どう思うって、………酷く、苦しみを味わった方々がいるのだと…」
男は机を強く叩く。
「…貴方は、覚えてない、…いや、知らないんですね」
国の化身として男は説いているのか、ドイツ人の一人として説いているのかは分からない。
「これは、世界にとって驚愕すべき映像、写真でしょうね」
「かつてナチがそうであった様に、彼らもまたそうだったのです」
「これは、貴方は分からないのかもしれませんね」
張り詰めた、極寒の部屋。
また、嫌な冷や汗がする。
「なぜ、分からないと決めつけるの?」
「貴方が化身だからですよ」
二つ目。
ポーランドでの話である。
映像は切り替わり、並べられたドイツ人の後ろ姿とポーランド人の兵が映る。
テレビの音声は小さく、ノイズの音しか聞こえない。
一度打てば彼女らは倒れた。
再び打てば、彼らは倒れた。
ただ、虚しく空虚な処刑。
もう一度、映像は切り替わる。
女性と子供が、ホロコーストの被害者となったと思しき人らの遺体を掘り起こしていた。
そして、幾人かの人々で協力し墓を作る。
しかし、ポーランド人に異変が。
「……ッッ!?」
彼女らを脅し、遺体の横へと寝そべらせた後、銃床で彼女らの顔を思い切り押した。
鈍い呻き声を上げて、後に男がもう一度話し出す。
「遺体の腐敗した部分が、彼女たちの口や鼻に入り込んだそうです。
遺体特有のぬるぬるとした感覚、そして異臭の地獄へと彼らは落とした」
その3**。**
迫害された東欧に住むドイツ人は、被害者なのか。
鈍い後悔の音
人には言えぬことが誰しもあるだろう。
私もその一人だ。
あぁ、自己紹介をしなきゃね。
「私は東ドイツだよ。君たちは知ってるよね、私の名前を」
そうさ、さっき話した通りわたしには言えない事がある。
それは迫害の記憶さ。
ポーランド人による迫害をひとつ語りゃ、この国の均衡を揺るがしてしまう。
だって、私は元々ナチス・ドイツだったのだから。
多くの被害を生んだ悪魔が、自らの勝手極まる所業により降り掛かった災厄等語れたものじゃないだろう。
今でも、痛みがあるのさ。
その4**。**
果たして、悪魔とは、加害者とは、歴史に踊らされた民族的ドイツ人なのか。
〜書き終わった後の感想〜
東欧に移り住むドイツ人に対しての迫害があったそうですねぇ。
私が見た映像は基本的に、ドイツ人に対しての暴力の映像でした。
確かに、ドイツ人は悪魔であったと言えるでしょう。
しかし、それを元に法にそぐわぬ私的な暴力的な罰の受けさせ方というのは納得いきませんな。