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____家族会議。それは、家族間での話し合いのことである。
「ということで、今回は『家族会議』をするわよ!」
マイクの代わりにカレンダーを丸めたミノリ(吸血鬼)は、そう言った。
あれ? 俺たちは今回から旅を再開するんじゃなかったっけ?
俺たちは、一列横隊で好きなように座っている。
あぐらをかいて座っていたり、女の子座りで座っていたり、体操座りで座っていたりと、多種多様だ。
しかし、それよりも『家族会議』が、なぜ行われようとしているのかが問題だったため、俺はミノリ(吸血鬼)にこう言った。
「なあ、ミノリ。この会議は一体何を決めるものなんだ?」
ミノリは嬉しそうに、こう言った。
「知りたい? ねえ、知りたい?」
その時、俺の隣《となり》で正座をしているコユリ(本物の天使)のおでこの血管が、少し浮き出たように見えた。
「あ、ああ、ぜひとも、知りたいな」
俺がそう言うと、ミノリはこう言った。
「分かったわ! それじゃあ、今から教えるから、よーく聞いてなさいよ?」
俺は、あぐらをかいて座っていたが、ミノリが何か重要なことを伝えるのかもしれないと思い、正座をした。
「今回の会議の内容は『誰がナオトのお嫁さんにふさわしいか』というものよ!」
その時、コユリ(本物の天使)がミノリに対して怒りの眼差《まなざ》しを向けながら、急に立ち上がった。
俺たちは、その表情に恐れを抱《いだ》くと同時に体を寄り添《そ》わせながら一箇所に集まった。
「あなたは何をのんきなことを言っているのですか?」
ミノリは、キョトンとした顔でこう言った。
「え? もしかして、あんたは、ナオトのお嫁さんになりたくないの?」
コユリは右手の親指で人差し指を『東〇|喰種《グール》』の『金〇』くんのようにバキッと鳴らすと、こう言った。
「あなたは最初に旅をしたいと言い始めたのが、あなただということをちゃんと覚えていますか?」
「そんなの当たり前じゃない。あたしを誰だと思ってるの?」
「バカは死んでもバカだと言いますが、あなたは、それ以上の愚か者ですね!」
「え? あたしって、そんな風に思われてるの? ねえ、ナオト。あんたはどう思う?」
な、なんで、俺に振《ふ》ったんだよ! というか、コユリの目が怖いよ。
なんか眼球の血管が浮き出てるよ。今にも血が吹き出しそうだよ。
と、とにかく、ここは慎重《しんちょう》に、事を運ばないと最悪の場合、コユリに殺されかねんな。
俺は苦笑いをしながら、こう答えた。
「お、俺は、ミノリはそんなやつだとは思ってないぞ、うん」
「本当? あたしの前だからって、嘘《うそ》をつく必要はないのよ?」
「ほ、本当だよ。俺は……いや、俺たち全員、ミノリのことをそんなやつだとは思ってないぞ、うん」
「だそうよ? 残念だったわね! 銀髪天使! あたしはバカじゃないってナオトが言ってるもの! 間違いないわ!」
その時、コユリの顔から殺意が生まれた。
「さすがの私も、あなたほどのバカは見たことがありません……これは一度、粛清《しゅくせい》しなければなりませんね!」
「ま、待て! コユリ! ミノリには何か考えがあると思うから、それを聞いてからでも……」
コユリは俺が最後まで言い終わる前に俺をギロリと睨《にら》みながら、こう言った。
「マスターは黙っていてください……!」
「は、はい、すみませんでした」
その時、ミノリがこう言った。
「ねえ、まだ何か言いたいことがあるの? 早くしてよー」
ミノリー! それは、火に油だぞー! コユリの怒りゲージが最大値《マックス》になるのを早めるだけだぞー!
俺が恐る恐るコユリの顔を見ると、おでこの血管が今にもぶち切れそうなほどに浮き出ていた。
彼女は目を見開くと同時に、今にもキレそうな笑みを浮かべながら、ミノリを凝視《ぎょうし》した。
「いっぺん、死んでみますか!」
や、やばいよ。やばいよ、やばいよ。『地〇少女』の決まり文句が怒りバージョンで再現されたよ。これは、もうお手上げかもしれない……。
俺がそう思った矢先、何者かがコユリに切っ先を向けた。
「ナオトの家族なら……ケンカなんてするな」
『名取《なとり》 一樹《いつき》』。名取式剣術の使い手で名刀【銀狼《ぎんろう》】を持っている俺の高校時代の同級生。
時々、その場にいても気づかないほど、存在感がない時がある。
そんな名取の行動に対し、コユリは怯《ひる》まず、こう言った。
「その刀をどけてください。でないと、あなたもただでは済みませんよ?」
「俺は無駄な争いは嫌いなんだ……だから、やめてほしい……でないと」
「でないと?」
「君を傷つけることに……なる」
「モンスターチルドレンであるこの私が、あなたのようなただの人間にですか? 冗談はほどほどにしてください。マスターはともかく、あなたが私に勝てる確率など……」
「コユリ、その辺にしとけ」
俺は両手を広げながらコユリと名取の間に割って入った。
それと同時に名取は、コユリに切っ先を向けるのをやめた。
「マスター、邪魔《じゃま》しないでください。私はただ」
「名取式剣術は相手の技を無効化する厄介なものだ。特に、こいつは歴代の使い手の中でも、かなり強い方だから、モンスターチルドレンといえど、確実に勝てる保証はないぞ?」
「それはやってみないと分からないでしょう? それに私は……」
「コユリ、頼むからやめてくれ。俺はお前と名取のことを思って言ってるんだ」
コユリは溜《た》め息《いき》を吐《つ》くと、こう言った。
「分かりました。マスターがそこまで仰《おっしゃ》るのでしたら、今回は、この辺にしておきます」
その時、俺は両手を広げるのをやめてしまった。
「ホ、ホントか! なら、この話はもう終わ……」
「……『|反闇の閃光《アンチダークネス》』」
「……えっ?」
コユリは、いきなり固有魔法を発動した。
この魔法は自分とあらかじめ指定した相手以外の時間を止めることができる。
数秒後、俺が周囲を見渡すと、俺とコユリ以外の時間が止まっていた。
「おいおい、マジかよ……」
俺は、コユリの顔を見ながら、こう言った。
「なあ、コユリ。どうしていきなり固有魔法を発動させたんだ?」
その直後、コユリはニッコリ笑った。
「それはもちろん、マスターと二人きりで話をしたいと思ったからです」
「今すぐ元に戻すのなら何もしない。だが、もしお前がそうしない場合は無理やり、言うことを聞かせてやる」
「そうですか……残念です。それでは、そうなる前に私があなたを支配します」
「なんだと?」
「今からマスターは私のものです。さあ、こっちに来てください……いえ、来なさい」
コユリは、そう言いながら両手を広げた。
「……コユリ、お前に一つだけ確認したいことがあるんだ。答えてくれないか?」
俺がそう言うと、コユリは両手を下《お》ろした。
「……確認したいこと……ですか。分かりました。ですが、それが済んだら、マスターは私のものになりますよ?」
俺はニヤリと笑いながら、こう言った。
「さて、それは……どうかな?」
「……?」
コユリが疑問符を浮かべている間に俺はコユリに質問した。
「なあ、コユリ。お前の固有魔法の名前は誰が考えたんだ?」
コユリは、しばらく黙っていた。
固有魔法の名前は自分以外の誰かに付けてもらわなければ、発動できない。
しかし、それは自分の中にある別の人格でも可能である。
だが、コユリは違う。
最初に、コユリが固有魔法を発動したのは俺の家に来た時だからだ。
コユリと出会った時、コユリは俺を殺そうとした。未だに誰の差し金かは分からないが、俺の予想だと、そいつの名前を口にするだけで証拠《しょうこ》を隠滅《いんめつ》するために、コユリは殺される。
もしそうだとしたら、コユリがここに来た理由を何も言わないのも納得がいく。
「……私は誰の命令にも従うつもりはありません。今までも、そしてこれからも。ですが、その人物のことを簡単に言うなら……『人ならざる者《もの》』です」
「そいつが、お前を苦しめている元凶《げんきょう》か?」
「……はい?」
「お前の固有魔法の名前を考えたやつと、お前に俺を殺すように命じたのは同一人物かと訊《き》いているんだ」
「私の話を聴《き》いていましたか? 私は、その『人ならざる者《もの》』から命《めい》を受けて、ここにいるわけではありません。ただ、固有魔法の名前をつけてもらっただけです。あと、私は別に苦しんでなどいませんよ?」
「……お前……気づいてないのか?」
「あなたが何を言っているのか私には分かりません。もっと分かるように言ってくださ……」
俺は、コユリを静かに抱きしめた。理由? そんなの決まってる。
「お前は……いや、お前たちは俺にいつも無理をするなと言うが、それはお前たちも同じだ。こんなどうしようもない俺と旅をしてくれるんだからよ。ホント、お前らを誕生させたやつに会ってみたいよ。まあ、要するにお前に言いたいことは【人の心配をするより、まず自分の心配をしろ】ってことだ。あー、それから」
コユリは俺が最後まで言い終わる前に俺を静かに抱きしめた。
「マスターは、ずるいです。私が一番、マスターのことを考えているのに、あなたは振り向かずに前に進んで、無茶して、傷ついて、でも、ちゃんと帰って来てくれて……なのに、私は……私は……!」
俺は、ギュッとコユリを抱きしめながら、こう言った。
「もういい。もういいんだよ、コユリ。俺は、もう大丈夫だ。だから、今度はコユリが俺に頼る番だ」
コユリもギュッと俺を抱きしめながら、こう言った。
「私は天使の姿をしていながら、マスターに対して歪《ゆが》んだ愛を抱《いだ》いている【悪魔】のような存在です。そんな私に、マスターに頼る権利など」
俺はコユリの頭を撫でながら、ゆっくりと床に両膝《りょうひざ》をついた。
その後、そのままコユリも床に両膝をつかせた。
「いいか、コユリ。人に頼るのに権利なんていらないんだよ。こういうのはな、自分が甘えたいとか、抱きしめたいとか、助けてほしいとか思った時にすればいいんだよ。俺は、お前の【家族】だし、仮だけど一応、保護者だ。だから、もーっと、俺に頼っていいんだぞ?」
コユリは、「……ふふふ」と笑いながら、こう言った。
「『か○これ』の『い○づち』のセリフを言わないでください」
「ははは、やっぱりバレたか。まあ、お前の笑顔を見られたから、よかったよ。さあ、お前の感情を俺に思う存分、ぶつけろ」
コユリは、さらにギュッと俺を抱きしめると、こう言った。
「う……う……マスター……私は、あなたがどこか遠くに行ってしまうのではないかと思ってしまいました。ごめんなさい……」
「うんうん、俺を心配してくれてありがとな。でも、今は俺とコユリしか、この会話を聞いているやつはいない……だから……」
「マスター! 私、とっても心配したんですよ! 私はマスターの帰りが遅いのは私のせいかと思いながら、ずっと、ずーっと待っていました! だから、もうどこにも行かないでください! そして、これからはずっと私のそばにいてください!! でないと、私は……私は……!」
コユリの目から溢《あふ》れ出す『無色の液体』は次から次へとポタポタと俺の服の上に落ちていった。
俺の腕の中では身長『百三十五センチ』の本物の天使が体を小さく震わせながら「うう、うう……」と泣いている。
俺は「よしよし、安心しろ。俺は、ここにいるぞ」などと言いながら、少しでもコユリの心が安らぐようにコユリが泣き止むまでずっと頭を撫《な》でていた。