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朝の2鐘(9時)の鐘が鳴る頃、千春とサフィーナ、モリアンの3人は王宮の厨房に居た、もちろんお昼に新しい料理を出す為にだ。
「ルノアーさんおはようございます!」
料理長のルノアーに元気よく挨拶をする、そして千春を見たルノアーはすぐに近寄って来た。
「チハルさん!先日のパン有難う御座いました!試食の分も食べさせて頂きましたが素晴らしいパンです、是非今後も王宮で作らせて頂いてもよろしいでしょうか!」
「ぉぉぅ・・・それはもちろん大丈夫ですよ、そのつもりで酵母も作ってますし?」
「はい、今日も新しく酵母を仕込みました、まだ最初のが出来てないので上手く出来るのか不安ですが、同じ作り方で準備しております。」
「上手く出来たら私も食べに来て良い?」
「もちろんです!」
(やったー!食費が浮くー!)
「有難う御座います、それで新しい料理を作りに来たんですけど、厨房お借りしてもよろしいですか?」
「もちろんです!今昼食の仕込みをやっておりまして、そちら側でしたらお好きなように、それで何を作るのですか?」
「スープを1品とちょっと変わった調味料を一つ作ろうかなと思ってます。」
そして材料を探す為食物庫の方へサフィーナとモリアンを連れて向かう。
「ところでルノアーさん。」
「はい。」
「なんでそんな喋り方なんですか?昨日はもうちょっと砕けた感じでしたよね?」
「はい!素晴らしいパンを教えて頂きましたのと、あの、王妃様からの託で『やんごとなきお方の子』と言う事をお聞きしまして、はい。」
「あぁ・・・。(そういう方向で行きましたか王妃様・・・)いや、そこは昨日くらいのフランクな感じで話して頂けると、こちらもありがたいなぁと思いますので、お願い出来ませんか?」
「そ、そう言う事でしたら、了解しました。」
どうも恐縮しまくった話し方されると話し辛い千春はホッとした。
「チハルこれよねコーンって。」
サフィーナはトウモロコシを見つけて指さしている。
「うん、トウモロコシだね、トウモロコシで通じてる?」
「農家の人たちはそう言ってるみたいね、聞いたことあるわ。」
モリアンにもトウモロコシで通じてるのに不思議に思ったが通じているようだった。
「ふーん・・・翻訳指輪すごいな、色んなパターンで翻訳可能なのか。」
「そう言えばチハルは魔道具使ってたんだっけ、違和感ないから忘れてたわ、たまに何言ってるか分からない時有るけどね、でもどこに付けてるの?」
そう、指には付けてないから尚更サフィーナは忘れていた。
「ネックレスにして首に付けてるよ。」
そう言いながらトウモロコシを物色する。
「とりあえず王様達に食べてもらいたいし試食もしたいよね。」
「「したーい!」」
侍女二人組は食べたいようだ、モリアンはあの後部屋に来て2人が食べ終わったのを見て崩れ落ちた、そしてそれを見かねた千春はスープを出してあげたのだった。
「是非私たちも食べたいですね、では手の空いている者も付けますので手伝わせて下さい。」
そう言って3人ほど連れてきた。
「助かります、正直コレ結構体力勝負なんで・・・道具あれば直ぐなんですけどねぇ、人力だからがんばってください!」
「「「はい!」」」
元気よく連れて来られた3人は返事をする、それもそのはずで、パン担当は美味しいパンを作るようになり、試食用のパンが人気有りすぎて他の侍女達からも、おこぼれが欲しいと声を掛けられていた、ぶっちゃけて言うと羨ましかったのである。
「それではコーンポタージュスープを作ります、そこの寸胴一杯作ります!よろしいですか?」
「「「はい!」」」
「では、トウモロコシを20㎏持って来て粒だけ削ぎ落してください、はい君!がんばれ!」
若い男の子を一人指差しトウモロコシ担当にする。
「で、君はタマネギを20個くらい微塵切りしてください、がんばれー。」
「は・・はい!」
タマネギ君も頑張るようだ。
「のこった君は作り方の流れを覚えてこの2人の進捗具合を見つつお手伝いね。」
そう言いトウモロコシが出来たら、タマネギと一緒にバターで炒め、それに水を入れ煮てさらにそれを細かく擦り濾し、牛乳と水を入れ焦げ付かないよう煮込む、と、工程を教える。
「と言う訳で最後の味の調整は塩でやるんだけど、ルノアーさんお願いしていい?」
「いや、味を知らないから出来ないが?」
「あ、それは全く同じじゃないけど持ってきたから飲んでみて。」
さっき飲んだ粉末スープを手ごろなカップに入れお湯を入れる、もちろん作るのはサフィーナである、慣れた手つきでスープを混ぜる。
「はい、これに近い感じで塩を入れて調節して見てくださいね。」
そう言いながらスープを渡す。
「チハル・・・作ってあげるわけじゃないんだ。」
「私もチハルさんが作ると思ってたよ。」
サフィーナとモリアンは引いたような顔で千春を見つめていた。
「えー言ったじゃん、お・し・え・に・い・くって、ちょっと作るのと大量に作るのってだいぶ違うから調節難しいんだよ、大鍋で作るならプロの方が上手く作れるんだって!」
「確かに大鍋で作るのと家族分を作る時の塩の量は調節が難しいな、分りました責任持って作らせてもらいます。」
ルノアーさんは納得して3人に指示し自分の仕事に戻った。
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時間は少し戻る、マルグリット王妃が千春を見送った後の事。
「王妃殿下、御髪の方は如何いたしましょうか。」
普段は髪の事など聞かずセットするエリーナが珍しく王妃に問いかけた。
「如何って何かしら?いつも通りで良いじゃないの?」
そう言いながら自分の髪を触る。
「・・・サラサラね。」
そう言いながら姿見の方へ移動し後ろを見る、まだ精油も付けていないのに艶が出ている、そしていつもの髪と違うサラサラ感、普段なら起きて気付く物だろうが千春が居たためそちらに気が行き自分の髪の変化に気付いていなかった。
「はい、精油を付けるのは良いのですがいつもの精油ですと手触りが勿体なく思いまして。」
エリーナはそう言いマルグリットの反応を伺う。
「そうね、今日はティーツリーを薄くお願いしようかしら?」
「はい、その様に。」
そして支度を終わらせマルグリット王妃は部屋を出た。
しばらく歩きマルグリットは豪奢な扉の前に立つ、兵士がすぐに中へお伺いを行う。
「ん、入って良いぞ。」
中から国王陛下が声を掛ける。
「おはよう御座います陛下。」
「ん?こんな早くから珍しいな・・・チハルの件か?何かあったのか?」
マルグリットが朝早くから陛下の職務室に来る事はよっぽどの事が無い限り無い、国王陛下は昨日千春と王妃が一緒の部屋で一晩明かした事で何か有ったのかと考えたのだ。
「有ったと言えば・・・大有りですわよ、あの子の今後の王国での対応は如何なさるのかお聞きしたいと思いまして。」
「ふむ、まぁお前に隠す事は無いからな、正直に言おう、出来る事なら爵位なり何かしらの保護をし他国からの干渉を防ぐ、異世界の国やチハルの知識は争いを生む。」
「そうでしょうね、あの扉を閉じ、こちらへ来ない様にすると言う選択肢は無いのですね?」
「あぁ、それも考えたが建設的ではない、過剰な技術や知識は身を亡ぼすが今の時点でこの国が出来る事は取り入れたいと思っておる、エンハルトとアリンハンド師団長がチハルに念押しされたそうだぞ。」
「何をですか?」
「向こうの世界の言葉らしい『この世の中で悪用されないものはない』だそうだ、それを見極めチハルの知識を『平和』に使ってくれとな。」
そう言い国王陛下は妻であるマルグリットに笑いかけた。
「ふふっ・・・あの子らしいわ、エイダンあなた娘欲しくない?」
「なっ!?・・・お前それは流石に極論だろう、他の者にはどう説明するつもりだ?」
「簡単な事ですわ、私の遠戚に連絡し籍が有るようにします、追って調べても問題無い様に手配いたしますわよ?」
「・・・ふむ、今すぐにとは行かぬだろう?」
「ええ、少し時間はかかりますが、チハルは私の預かりとして王国で暮らしてもらいます、異世界の門に関しては両隣の部屋も改築、王宮にもチハルの部屋を仮で作っておきますのでチハル不在の日でも侍女二人に対応させます。」
「分った、ただその件に関しては必ずチハルの了解を取ってからだぞ、あの子が嫌がり此方に来なくなっては困るからな。」
もうこれ以上言っても無駄だろうと国王陛下は最後の念押しだけはしておいた。
「分ってますわ、でももう一押しだと思いますけどね~、所でエイダンあなた私を見て何か気付かない?」
「ん?いつもと変わらんが、相変わらず美しいぞ?」
「んーーーー、あなたそう言う所なのよね、国王陛下じゃなく貴族だったらダメダメよ?」
「どういう事だ?」
夫婦で悶着しているとノックが鳴った。
「陛下失礼いたします、マルグリット様おはようございます。」
そう挨拶をしながら宰相のルーカス・クラークは軽くお辞儀をする。
「おはようルーカス、では私の用事は終わりましたのでお暇させて頂きますわ。」
マルグリットはそう言い扉へ向かう。
「マルグリット様、その御髪は・・・」
「あら、新しい洗髪剤と精油を使いましたの、如何かしら?」
「はい、とてもお美しい、もし宜しければ妻にもと思いますので何を使われているのか教えて頂ければと。」
「ごめんなさいね、まだ出せない物なのよ、製品化出来る様でしたら一番にお分けしますわ。」
「有難う御座います。」
そしてマルグリットは国王陛下を見る。
「こう言う所よ?」
クスクスと笑いながら扉を出て行った。